最新記事

映画

日韓関係悪化でも日本の映画人が多数参加した釜山国際映画祭 新たな試み次々と

2019年10月18日(金)19時20分
ウォリックあずみ(映画配給コーディネーター)

バリアフリーと障がい者への視線

日本では、2020年東京オリンピックが開催されるとともに、同時に開催されるパラリンピックにも注目が集まっている。バリアフリー化もますます進んでいきそうだ。ただ、まだカルチャー、特に映画の分野では根付いていないように感じる。

今年の釜山国際映画祭では、特別イベント会場に「暗闇の中の映画館」が登場し話題となった。メイン会場「映画の殿堂」の野外広場に設置された縦3m横6mのコンテナ型映画館では、韓国初の女性飛行士であり独立運動家でもあったクォン・ギオク氏についての映画『鋼のつばさ(강철날개)』が上映された。この映画を観る観客は入り口で視覚障がい者用の杖を渡され、真っ暗な上映館内を点字で自分の席を見つけなくてはならない。スクリーンはなく真っ暗な会場の中で、自分の耳だけで映画を観る体験を通して、ハンディキャップをもった人が映画を観るということを体感することができるという企画だ。

このイベントだけでなく、映画祭期間中「障がい者メディア祭」とし、様々なバリアフリーイベントが行われた。映画祭招待作品である『Jazzy Misfits(原題:초미의 관심사)』のバリアフリー上映や、ミュージカル上演、オーケストラ演奏。また、10日の夜行われた「バリアフリー・ナイト」では、人気ロックバンド「ノーブレイン」のステージや、作家イ・ファソン氏のカリグラフィーショーが行われ注目を集めたの。ロックバンドが数組演奏する舞台では、ダンスをしながら手話をする演出やメディアアートなど聴覚障がい者の人々も楽しめる工夫がされていた。

アートの分野もどんどん垣根が取り払われ誰もが楽しめるエンターテインメントコンテンツに挑戦しているようだ。釜山国際映画祭によると、このように大規模映画祭とバリアフリー行事が一緒に開催されたのは世界で初めての試みだという。世界の著名な映画祭を見ても言語的、文化的なバリアは取り払われようとしているが、身体的なバリアはまだまだ残っているだけに、解決に向けた様々な可能性が広がっている。

「ボイコット・ジャパン」の嵐のなかで

過去最悪といわれる日韓関係だが、釜山国際映画祭では影響はあったのだろうか? 今年、「アジア映画人賞」を受賞した是枝裕和監督は、5日に行われた記者会見で記者から日韓関係悪化についての意見を求められ、会場に一瞬緊張感が張り詰める一幕があった。同席していた映画祭委員長が「映画以外の質問には回答しなくてもいいですよ」と監督にフォローしたが、是枝監督は「政治が困難に直面してできない連帯を、映画と映画人がより豊かにより深く示すことで、逆にこういう形で連帯ができるのだ、と見せていくことが大事ではないか」と、映画の力を信じる回答をして話題となった。

今年の開幕作にはカザフスタンと日本の合作作品『オルジャスの白い馬』が選ばれ、ワイドアングル部門の審査員の一人には日本人の濱口竜介監督が選ばれている。政治や国家の問題は切り離して、ただ良い映画を上映する場であろうとする釜山国際映画祭の強い意思を感じた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中