暴力と血のにおいが漂う、中国名監督ジャ・ジャンクーの最新作
A Smell of China
ただ賈にとって、暴力は単なる人間の本能の発露ではない。「暴力が存在するのは、社会に非合理や不公平が存在するからだ。暴力は新旧概念の衝突の結果でもある」
江湖の宿命である「流浪」がテーマの映画でもある。北京五輪開催が決まった2001年の大同、三峡ダム完成が迫る2006年の長江と新疆ウイグル自治区、そして高速鉄道駅が完成した2017年の大同へ。猛スピードで変化した中国のありさまを、炭鉱の町だった大同に似つかわしくない超近代的な高速鉄道駅が象徴する。
香港デモ襲撃との「符合」
賈はこう言う。「『長江哀歌』でわれわれは直接、変化を目にすることができた。(三峡ダム建設で)上がる長江の水位、取り壊される建物、船に乗って立ち退いた人々などだ。だが、今回撮りたかったのは見えない変化、人々の感情処理の変化だ」
情と義を重んじてきたはずのやくざ者にすら、中国の発展は変化を迫ってきた。だが、物語の最後でチャオとビンは江湖の価値観へと帰っていく。
続く香港の抗議活動で、江湖の1つである「三合会」がデモ隊襲撃に関わったとされている。「新旧概念の衝突」のリアルな場に江湖が現れたのは示唆的だ。
ASH IS PUREST WHITE
『帰れない二人』
監督/ジャ・ジャンクー
主演/チャオ・タオ、リャオ・ファン
日本公開は9月6日
<本誌2019年9月10日号掲載>
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※9月10日号(9月3日発売)は、「プーチン2020」特集。領土問題で日本をあしらうプーチン。来年に迫った米大統領選にも「アジトプロップ」作戦を仕掛けようとしている。「プーチン永久政権」の次なる標的と世界戦略は? プーチンvs.アメリカの最前線を追う。

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