映画「アベンジャーズ」が韓国を変えた 撮影現場にハリウッドがもたらした緊急医療支援
一流のスタントアーティストが危険を伴う撮影をできるのも、緊急医療チームが待機している安心感があればこそ Mario Anzuoni - REUTERS
<国民一人あたりの年間映画鑑賞本数が日本の約3倍、ハリウッドの話題作が本国に先駆けて公開されるなど、コンテンツビジネスとして映画が健在な韓国。それをサポートした国の施策がなくなるというが......>
ダイナミックなアクション映画、派手な爆破シーンの多い戦争映画。どれも映画館への動員が見込めるジャンルだが、スクリーンの裏の撮影現場ではこれらの映画は出演者やスタッフが日夜危険と隣り合わせで作られている。
一般にはあまり知られてはいないが、韓国では2014年から、こういった危険が伴う映画撮影現場に緊急医療チームを派遣する支援制度があった。国の機関、韓国映画振興委員会(KOFIC)が助成していた「映画現場緊急医療支援」である。
これは、撮影現場に救急車など緊急医療チームを派遣する際の費用を支援する制度だった。しかし2019年4月4日、KOFICはこの支援を廃止することを発表し、注目を集めている。
この資金は、すべての映画に対応しているわけでなく、申請された韓国映画から振興委員会が定めた規定をクリアした危険シーンを含む映画に支援されている。2014年からスタートし、初年度は9作品。その後、2015年には15作品、2016年13作品、2017年16作品。昨年2018年は17作品が対象となり、支援金が助成されてきた。韓国映画の制作作品数は年々減ってきているといわれているが、観客に人気の高い派手なアクションシーンのある映画は増えている。また、この制度の存在も知られていき、毎年申請本数が増えてきていた矢先の打ち切りだった。
支援の内訳は、昨年2018年度の場合、申請が通った作品の緊急医療にかかる費用全体の80%をKOFICが負担した。また、スタッフの全員が「標準勤労契約書」にサインしているか、製作費が10億ウォン(約1億円)未満の低予算作品には100%の支援をしてきた。
国からの支援は役目を終えた?
5年間実行されてきたこの支援制度だが、今回廃止となった理由としてKOFICは次のように述べている。まず、1つは5年間の支援により韓国映画業界での緊急医療の必要性への認識度が十分高まったため。もう1つは支援作品が高額な製作費の大作に集中してしまいあまり効果的でないと判断したためだ。確かにアクションや、危険を伴うシーンのある映画は低予算ではなかなか難しく、支援が偏ってしまうのは仕方がない。実際、去年対象となった支援作品の8割が製作費が50億ウォン(約5億円)を超える映画だった。
2014年に始まった支援だが、きっかけは意外にもハリウッド映画だった。2015年に公開され世界的に大ヒットしたスーパーヒーローシリーズ『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』だ。この映画では中盤、舞台が韓国になる。国をあげてのロケ誘致に成功し、約2週間にわたって、ソウルを中心に大規模な韓国ロケが行われた。ソウルの真ん中を通る漢江にかかっている麻浦大橋を朝6時〜夕方5時半まで全面封鎖して撮影協力をしたほどだ。
当時韓国文化体育観光省の第1次官だったジョ・ヒョンジェ氏は、その撮影現場を見学後、現場で救急車と消防車が準備できないと撮影を開始しないというハリウッドスタッフらの安全意識の高さに感銘を受け、このシステムの韓国導入のため支援を決定した。見習うべきものがあれば、それをすぐに生かすために決断と実行する速さは、さすが韓国だと感じた。