最新記事

音楽

アジア人を侮辱する言葉が、アジア系を描いて絶賛された映画の柱に

A Rich Mandarin Anthem

2018年10月29日(月)16時06分
クリスティーナ・チャオ

ホーにとっては現実とは思えない状況が訪れた。「あの曲が映画を離れて独り歩きするとは思わなかった」と、彼女は言う。

中国系移民の娘であるホーは、アジア系の若者に影響を与えた映画に関わったことを誇りに思っている。「アジア系であることで私は不安を感じていた。よそ者扱いされ、自分で自分を正当化しなくてはいけないように感じていた」と、ホーは言う。「この映画を見て考えが変わった。アジア系アメリカ人であることを誇るべきだと分かった」

監督のチュウにすれば、この曲には2つの役割があった。シンガポールを出発するレイチェルにふさわしいものであること、そして映画を締めくくるものであること。その2つを果たせる曲は「イエロー」しかなかったと、チュウは言う。「私たちがイエローと呼ばれるなら、その言葉を美しいものにしよう」

だが当初、それは不可能にみえた。配給元のワーナー・ブラザースは、「イエロー」を使えば観客の反発を招くのではないかと懸念していた。最初に使用許可を求めたときは、コールドプレイに断られた。しかしチュウは諦めず、コールドプレイのメンバーたちに手紙を送った。

「これまでの人生で、私は『イエロー』という色とは複雑な関係にありました」と、チュウは書いた。「でもそれは、あなたたちの曲を聴くまでのことです。あの曲は『イエロー』を私の知らない魔法のような方法で、最も美しく表現していました。あの曲は、私と友人たちのための賛歌になったのです」

コールドプレイ側は手紙を受け取ってから24時間もたたないうちに、曲の使用を承諾した。

中国語の歌詞の趣旨は、夢や愛する人を追い求めることだと、ホーは説明する。「初めは克服し難い障害や不確実性に直面する。けれどもある時点で、何があってもその人や夢を追い掛けると決め、ひたすら前に進む。そして最後に愛が勝利する」

そう歌った曲は、あまりにも大きな意味を映画にもたらした。

<本誌2018年10月30日号掲載>

20241126issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 8
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 9
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 10
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中