最新記事

クロストーク

文化財もアスリートもアニメも...境界を越えるコミュニケーションの未来へ

PR

2016年10月11日(火)12時00分

非言語で価値を共有できるのがポップカルチャー

NW_WFSC-3b.jpg

アサツー ディ・ケイで主に日本政府観光局を担当し、海外から日本に観光客を呼ぶプロモーションや、アニメやコミックスなどの映画のプロモーションを手掛けてきた沖田修一氏。ワークショップのテーマは「日本のポップカルチャーの可能性:Beyond Cool Japan――グローバル社会における、文化と言語の壁を越える新たなコミュニケーションツールとその方法を考える」

――テーマは「日本のポップカルチャーの可能性」とのことですが、これまで日本のポップカルチャーは世界にどのような影響を与えてきたのでしょうか。

沖田 1つ目はアニメを通じた人材の交流です。例えばサッカー漫画を共通のアイコンとして、世界のサッカー選手と日本人選手が交流を始めるなど、日本のアニメには大きな影響力があります。2つ目は、日本を好きになってもらうきかっけになっているということ。アジアの観光客からは、お台場にあるガンダムを見たいとか、そのような声をたくさん聞きました。

奥窪 外国人観光客がお台場のガンダムを見に来るという話には驚きました。100年後や200年後には、二条城に並ぶ文化財的な存在になっている可能性もあるということですね。

NW_WFSC-6b.jpg

東京・お台場には「ガンダムフロント東京」(有料施設)があり、外国人観光客にも人気。特に屋外に立つ実物大のガンダム立像は人目を引く観光スポットとなっている © 創通・サンライズ

小林 日本のアニメがビジネス以外の面で与えた影響もあるのでしょうか。

沖田 ノーベル賞の受賞者に、日本のロボットアニメを見て科学者になりたいと思ったという先生がいるエピソードが示すように、教育の面で影響を与えていることが多いようです。

――ビジネスや生活、教育といった、コンテンツ以外の分野にポップカルチャーを活用していくという内容は興味深いと思います。

沖田 アサツー ディ・ケイが関わった仕事で、中国人観光客に対して日本独自のマナーを啓蒙するというガイドブックをつくった際に、ドラえもんを活用しました。ドラえもんというアイコンを使うことで、親しみを持って伝えるという部分でいうと目的は達成できたのではないかと思います。共通のアイコンがあると、言葉を話すことができなくても、何となくそこで価値が共有されるということが起こります。

――リオ・オリンピックの閉会式での「アベマリオ」はまさによい活用例ということですね。

沖田 マリオというキャラクターを深く知っている人はそれほどいなかったとしても、何となく知っているだけでも、共有されるということですね。私も「アベマリオ」は見ていてワクワクしましたし、2020年までにあのような流れがもっと出てくるといいと思いました。

小林 ポップカルチャーにフォーカスが当たったのはすごくよかったと思いました。マイナスのイメージも含んでいたアニメや漫画が、世界的に認められて今では日本のひとつの文化になっているというのは本当に素晴らしいことです。

沖田 でも、いまだに日本ではアニメはオタクだと思っている人が多いのは残念。海外の人にはネガティブなイメージはなくて、海外のアニメ好きな人って、本当に普通の人ばかりです。その点は、我々日本人は見方を変えなければいけません。奥窪さんは日本の文化財に携わっているということで、外国人に日本のよさを気づかされることもあるかと思いますが、その点で我々が気をつけないといけないことはありますか。

奥窪 文化財に対してありがたみを持ちすぎて、価値あるものという前提で見がちなところがあります。博物館や美術館に行く行為自体がステータスみたいになりがちで、アニメや漫画を楽しむのと同じ感覚で接しないといけないのかなと思いますね。

世界各国から集うリーダーも議論に参加

――当日は日本だけでなく、60を超える国や地域からも多くの人たちがやって来ます。改めて官民ワークショップに期待することとは何でしょうか。また、2020年に向けた「改革2020」という政府の成長戦略がありますが、それに対しても期待などあれば教えてください。

奥窪 我々のセッションでは、日本ならではの技術進化の在り方、技術との付き合い方を深掘りしていく方向性を考えています。その中で、海外の人がどう感じるのか、ぜひインタラクティブに会場の人にも意見をいただくような形で進行したい。また、「改革2020」プロジェクトには観光立国のショーケース化というテーマがありますが、凸版印刷が文化財のVRを通じてアーカイブしているデータが役立つように、インフラ的な整備や利活用の弾力的なルールづくりを官民で議論し、2020年には実現できるよう政府に期待しています。

小林 今回のフォーラムは、外国人を含めていろいろな人たちが集まる中で生まれる議論です。日本の素晴らしさや日本が誇るべきものを、フィルターをかけずに議論の中でみんなが気付いて、それがひとつの発見として残ればいいなと思っています。政府はそれをどう具現化していくのかということを含めて、議論の結果を活かして未来へ繋げてほしいと思います。

沖田 セッションでは、業界をリードしている4名の方に登壇していただきます。海外の人もいるので、「日本人の思う日本」と「海外の人が思う日本」の違いなどをディスカッションしていただけるのかなと思っています。世界に向けて日本の文化を発信していくという視点で考えると、政府と企業が一丸になってオールジャパン体制で盛り上げていくことを、うまくできればいいなと考えています。

◇ ◇ ◇

「境界を越えるコミュニケーション」とは何か。それをこのフォーラムの場で、日本から世界に発信していく意義とは何か。本記事では各パートナー企業の担当者に語ってもらい、それにより大きな可能性が見えてきたが、これらはあくまで概要にすぎない。ワークショップ当日には、世界各国から集うリーダーたちが議論に参加することで、より深みのある「未来への提言」が形づくられていくはずだ。

Text:西山 亨
Photo:遠藤 宏

NW_WFSC_tree_v2_550.jpg


文部科学省 スポーツ・文化・ワールド・フォーラム
会期・会場:10月19日~20日:京都(ロームシアター京都等)、10月20日~22日:東京(六本木ヒルズ等)
主催:文部科学省、スポーツ庁、文化庁
http://wfsc2016.mext.go.jp/


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独CPI、2月速報は+2.8% コア指数は伸び鈍化

ワールド

トランプ関税巡り希望持てず=訪米後に仏大統領

ワールド

英語を米国の公用語に、トランプ氏が大統領令を計画=

ビジネス

米PCE価格、1月+2.5%にやや減速 個人消費は
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:破壊王マスク
特集:破壊王マスク
2025年3月 4日号(2/26発売)

「政府効率化省」トップとして米政府機関に大ナタ。イーロン・マスクは救世主か、破壊神か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 3
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身のテック人材が流出、連名で抗議の辞職
  • 4
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 5
    米ロ連携の「ゼレンスキーおろし」をウクライナ議会…
  • 6
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 7
    日本の大学「中国人急増」の、日本人が知らない深刻…
  • 8
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 9
    【クイズ】アメリカで2番目に「人口が多い」都市はど…
  • 10
    「売れる車がない」日産は鴻海の傘下に? ホンダも今…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チームが発表【最新研究】
  • 3
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映像...嬉しそうな姿に感動する人が続出
  • 4
    富裕層を知り尽くした辞めゴールドマンが「避けたほ…
  • 5
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 6
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身…
  • 7
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
  • 8
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    東京の男子高校生と地方の女子の間のとてつもない教…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 10
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中