最新記事

映画

フレミングの007よ、永遠に

最新作『007 スペクター』の原点がここに 原作者イアン・フレミングが描くジェームズ・ボンドの世界

2015年12月1日(火)17時05分
エドワード・プラット

ミステリアス 原作でもボンドの生い立ちには謎が多い SPECTRE ©2015 METRO-GOLDWYN-MAYER STUDIOS INC., DANJAQ, LLC AND COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED

 シリーズ24作目となる映画『007 スペクター』。ダニエル・クレイグ主演4作目、サム・メンデス監督2作目の今回は予告編を見る限り、いかにもジェームズ・ボンド作品らしい仕上がりという点で太鼓判が押せそうだ。雪山での死、つかの間の情事、気の利いたジョークの数々......。

 それでも新鮮味のない映画にならないのは、さすが名匠メンデス。シリーズ最高のヒットを記録した前作『007 スカイフォール』に続いてボンドの生い立ちに迫り、原作の謎めいた、それでいて抗し難い魅力を持つ主人公の空白を埋めようとしている。

 原作はイアン・フレミングによるスパイ小説シリーズ全12巻。62年前の刊行以来、世界で累計1億部以上売れている。だが『スペクター』は見たいけれどフレミングの名は聞いたこともない、という人も多いだろう。何とももったいない話だ。

 冷えたマティーニとクレイグの冷徹な視線とスポンサー企業の商品ばかり2時間半見詰めても、ボンドという人物は到底知り尽くせない。全体像を知りたければ映画を見た後に原作を手に取ってみることだ。彼の生い立ちには詳しく触れていないが、随所に珠玉の会話や描写がちりばめられている。

 1953年刊行のシリーズ第1作『カジノ・ロワイヤル』の書き出しは「午前3時、カジノの香りと煙と汗は吐き気がするくらいだ」。ボンドの人物像を明確に捉えていなければこうは書けない。第1章の終わりでボンドは「銃口を短く詰めた38口径のコルト・ポリスポジティブ拳銃を手にして」眠りに落ち、その顔は「皮肉で残酷で冷たい、無口な仮面に戻って」いる。ボンドという男の特徴を余すところなく伝える描写だ。

 ボンドはラストで、二重スパイだった恋人ヴェスパーの自殺を本部に報告する。「クソ女(ビッチ)は死んだ」という有名なせりふは彼の非情さ、露骨な女性蔑視、任務への忠実さの証しだ。

あえてボンドに謎を残す

 続くシリーズはボンドの性格と経歴に興味深い彩りを添える。『女王陛下の007』(63年)でボンドは結婚するがその夜、新妻を宿敵に殺されてしまう。11作目の『007は二度死ぬ』(64年)ではボンドがスイス人の母親とスコットランド人の父親の間に生まれ、11歳で孤児になったことが明かされる。メンデスはこれを基に、『スカイフォール』後半でスコットランドのボンドの生家を登場させた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、5月中旬にサウジ訪問を計画 初外遊=関

ワールド

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏

ワールド

訂正-米テキサス州のはしか感染20%増、さらに拡大

ワールド

米民主上院議員、トランプ氏に中国との通商関係など見
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中