最新記事

映画

紀里谷和明、ハリウッド監督デビューを語る

2015年11月13日(金)17時10分
大橋 希(本誌記者)

――モーガン・フリーマンから言われた一言に感動したそうだが。

 モーガンの撮影最終日だった。僕は撮影があまりに過酷で、肉体的、精神的にものすごく、これ以上ないってくらいに追い詰められていた。これが終わったらもう映画はやめよう、こんな苦しいことをなぜやる必要があるのかと思っていた。そうしたら休み時間に座っていた僕のところに彼がきてくれて、「自分はいろんな監督と仕事をしたことがあるが、君は大丈夫だから」と声を掛けてくれたんです。

 自分はダメだ、指揮官の資格がない、適していないと思って精神的に追い込まれている状態だった。でもモーガンにそう言われて、止めるのを止めよう、もっと続けようと思いましたね。とにかく嬉しかったし、救ってもらった。

 その時、「僕がもっと良い監督になるにはどうしたらいいか」と尋ねたら、「Listen」と。意味を聞き返しても、ただ「Listen」と言って立ち去っていった。いろいろな意味があると思うけど、あれこれ分析するのはやめた。

――かつて日本映画界を批判するような発言をして、映画が撮れなくなるほど立場が難しくなった時期もあった。

 言ってしまえば、個人の話ではないんです。『CASSHERN』の頃からそうだった。

「日本人だから出来ない」っていう言葉が、僕は嫌で仕方がない。外国の人たちが「日本は島国だから」「あいつら島国だから」なんて言うのは聞いたことがないし、もし自分に子供がいたら「おまえは日本人だからできない」なんて口が裂けても言わない。

 最初に僕が映画を撮ろうとしたとき、周りの人たちに「そんな作品を撮るのは日本では無理。ハリウッドじゃないんだからさ」と言われた。「だったら僕がやります」と、日本では言ってはいけないことを言ってしまったんです。

 04年に『CASSHERN』が公開され、アメリカからオファーがいくつも来て、エージェンシーと契約もした。それが今回の『ラスト・ナイツ』につながっている。あの頃から、僕の作品が否定されてもいいけど、こういうやり方でやってみればそんなにお金を使わなくてもいろんなことができるでしょう、という気持ちがあった。僕は映画業界のこと思っていたし、日本のことを思っていた。それは今も同じ。『ラスト・ナイツ』をやることで、日本でもこういうキャストで、こういう作品を作れるんじゃないですかと。少なくとも日本人だから出来ない、というのは違うと証明したつもりです。

 15歳からアメリカで暮らしているから、偏見や差別については分かっているつもり。黒人の友達やゲイの友達、自分も含めて周りの人間がどんな偏見を受けてきたかを分かっている。日本人は、自分で自分に偏見を持っているんだと思う。

 もっと世界に貢献できるのに、「日本人だから」と逃げている気がする。僕が『ラスト・ナイツ』を撮ることによって、その偏見が0.1ミリかもしれないけど変わる可能性があると思っている。

――次回作はどこで撮る?

 海外で。撮影場所はアメリカかカナダです。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中