創業者たちの不仲が、世界で最も重要な会社をつくり上げた
成功を導く人間関係について考えさせる『インテル 世界で最も重要な会社の産業史』
『インテル 世界で最も重要な会社の産業史』(マイケル・マローン著、土方奈美訳、文藝春秋)の著者は、全米で初めてシリコンバレー担当を置いた新聞『サンノゼ・マーキュリーニュース』において、初の同社担当となった記者。取材実績は1970年代から今日におよぶというのだから、その労力たるや想像に余りある。
駆け出し記者だった二四歳のとき、"一般メディア発のインテル・コーポレーション担当記者"という珍しい立場に置かれた。当時インテルはすでに誕生してから一〇年近く経っていた。(中略)シリコンバレーでいち早くジャーナリストとして働きはじめ、またこれほど長きにわたって続けてきたことから、いまではゴードン・ムーアとアンディ・グローブだけでなく、ボブ・ノイスのこともよく知っているおそらく最後のジャーナリストという驚くべき立場に置かれている。(564ページ「著者あとがき」より)
半導体メーカーの半世紀におよぶ歴史だと聞けば、「専門的で難しそうだ」と感じるかもしれない。しかし、読み進めていくうちに、そういうタイプの作品ではないことがわかる。端的にいえば、本書に描かれたインテル史は、そのまま"人間たちの歴史"であるともいい換えられるのである。
キーマンは3人。まずは、カリスマ性の持ち主でありながら、怠惰で頼りなくもあるロバート・ノイス。次に、親切心と良識を持ちつつも、浮世離れしていて困難な決定には及び腰だったゴードン・ムーア。そして聡明だが反抗的で、ノイスとの対立に明け暮れた(だがムーアのことは敬愛していた)アンディ・グローブである。
それぞれが強烈すぎる個性の持ち主で、人間関係という側面から見ると、どう考えてもバランスは理想的ではない。だが著者は、その不思議な関係性があったからこそインテルは成功したのだとも指摘している。大抵のビジネス・パートナーシップは仲よくスタートし、高確率で険悪な関係になるが、インテルの場合は、不仲で始まった創業者たちがやがて互いへの敬愛を深めていった稀有な例だというのだ。
三人の創業者(あるいは二人の創業者プラス一人)をつぶさにみるほどに、彼らは仕事上のパートナーというより家族のように思えてくる。ぶつかりあい、陰で何かを企んだりつまらない言い争いをしたり、過去の冷たい扱いを根に持ったり、ときに嫉妬をして相手を責めたり。だが仕事相手というよりはるかに深い絆で結ばれており、互いの勝利を誇りに想い、互いの弱みを埋め、共通の敵の前には反感を捨て去り、チームとしてそれぞれ個人では絶対に成し遂げられなかったような成功を手にした。(78ページより)
これには同感で、だから私も「産業史」としてではなく「人間物語」としてこれを読んだ。