話題作『Mommy/マミー』が映す愛と絶望と希望
カナダの監督グザビエ・ドラン監督は母子の葛藤の中に、普遍的な生きづらさと希望をみせている
たくさんの愛 ダイアンにとってスティーブ(右)は悩みの種であり、最愛の人 Shayne Laverdiere / © 2014 une filiale de Metafilms inc.
強烈な磁力を感じる映画だ。昨年のカンヌ国際映画祭で審査員特別賞を取っているが(ジャンリュック・ゴダールとW受賞)、そんな売り文句がなくても『Mommy/マミー』にはきっと多くの人が心をつかまれるはず。監督はカナダのグザビエ・ドラン(フランス語圏のケベック州出身)。26歳だ。
舞台は2015年の「架空の国カナダ」。シングルマザーのダイアン・デュプレ(アンヌ・ドルバル)は、矯正施設から出てきた15歳の息子スティーブ(アントワン・オリビエ・ピロン)と一緒に暮らしはじめる。スティーブはADHD(注意欠陥・多動症)で、ときに激しく情緒不安定で攻撃的になる。
トラブルの絶えない生活が少しずつ変わっていくのは、ダイアン親子が向かいに住むカイラという女性と親しくなってから。休職中の高校教師であるカイラはスティーブの勉強の面倒をみることになり、ダイアンの話相手になって――。
ドランは脚本・監督・主演を務めたデビュー作『マイ・マザー』(09年)で反抗期にある少年の母への愛憎を描いた。今回また母というテーマに戻ってきたことは興味深い。「僕がもっとも愛するテーマを1つ挙げるとしたら、それはおそらく僕の母についてだ。同時にそれは母親というもの全体を指している」と、本人は語っている。
1:1という画面サイズが生む効果
Shayne Laverdiere / © 2014 une filiale de Metafilms inc.
これまでもそうだったように、ドラン作品の登場人物は複雑だ。いわゆる普通の人々、ではないかもしれない。ダイアンだって言葉は悪いし(タクシーの中で息子に「子供は黙ってオナニーしてて」なんてなかなか言えない)、40代とは思えない服装だし、スティーブとしょっちゅう怒鳴り合っている。カイラも家庭に問題があるようで、ストレスからか吃音に苦しんでいる。
ADHDやシングルマザーという要素でいえば、当事者として共感できる人は多くはないと思う。それでも脚本や演出の鋭さゆえだろう、彼らを見ていると普遍的な、誰にでもある生きにくさや惑いを抱える存在として親近感を覚えてしまう。