アカデミー賞候補入り、日本人夫婦の素顔
──同業者、特に表現者同士の結婚のいい面と悪い面は?
乃り子 デメリットっていったら、本当に地獄。同じ屋根の下に自我の強いアーティストが2人っていうのは二重苦なわけ。
一緒にいていいのは、例えば旅行で海に行ったとき、誰か自分の荷物を見てくれる人がいないと困るでしょ。そういう2人でいたほうが便利なことは世の中にいっぱいあるわけじゃない。だから結婚っていうのは愛情だけじゃなくて、効率性っていうのも1つの形だと思うの。
有司男 僕たちアーティストで、しかも外国で成功しようとしてるわけだから、協力し合ったり情報を共有できるのがいい点かな。一緒に美術館に行って、絵を鑑賞したりね。夫婦の会話が豊かになっていくしね。
乃り子 1人で見たほうがいいよ。うるさくてしょうがない。
有司男 そのやりとりがまた面白いんだよね。俺がしゃべり過ぎるから、「黙ってろ」ってね。だからすごい僕たちはうまく機能してる。夫婦、同じ職業で。
乃り子 自分がそう思ってるだけでしょ!
有司男 どろどろでけんかしてるのが僕たちで、面白いんだよ。
乃り子 映画の中で、有司男が日本に行って家を空けるシーンがあるでしょ。その静かな空間で、私がどれだけ豊かに過ごしていたことか。
有司男 それはだから相対的な話で、たまにあるからいいんだよ。ずっと静かだったら、寺みたいな家で全然楽しくねえよ。
──「キューティー」シリーズで注目され始めた妻に嫉妬は?
有司男 あるよ。夫婦でも絵になると競争相手になるからね。それがないと刺激し合えない。乃り子の絵は、あの単純明快なところが受けてるわけよ。で、僕のはぐちゃぐちゃで分かんないって言われることがあるよね。
乃り子 「単純明快」っていう表現は、私の絵には合わない。
有司男 あっ、単純じゃなくて複雑明快か。それもおかしいな。線は単純だけど内容は濃い、か。
乃り子 ぜんぜん線も単純じゃないし、みんなきれいだって評価してくれるじゃない。
有司男 いちいち褒めなきゃなんねえからな、夫婦なのに(笑)。