最新記事

映画

N・ポートマン、迷走の女優人生

キャリアを欲張るオスカー女優ナタリー・ポートマンに「黒鳥」がもたらす不吉な予感

2011年6月17日(金)15時13分
ネーサン・ヘラー

大きな勲章 『ブラック・スワン』(日本公開中)でついにオスカー女優に ©2010 Twentieth Century Fox.

 いよいよ、目が離せないヤマ場に突入しそう。その前に、コーラとポップコーンを買ってこなくちゃ──。超大作映画を地上波のテレビで見るように女優ナタリー・ポートマンのキャリアを見てきた人たちは、最近こんなふうに感じているかもしれない。

 1月には、セックスだけの関係を求める研修医役を演じた初のラブコメ主演作『抱きたいカンケイ』が全米公開された。2月には、完璧主義者のバレリーナを演じた芸術路線の問題作『ブラック・スワン』でアカデミー賞主演女優賞を受賞。この作品で共演したフランス人ダンサー、バンジャマン・ミルピエとの婚約と妊娠も発表している。

 ハリウッドでは今さら驚くような展開ではないが、ポートマンとなると話は別だ。90年代に子役でデビューして以来、謎めいた雰囲気に包まれてきた彼女に、大きな転機が訪れようとしているのかもしれない。

 ポートマンは、ハリウッドのセレブとしては異彩を放つ存在だ。ハーバード大学卒業という輝かしい学歴やマルチな活躍が特別なわけではない。映画スターが一流大学に通ったり、いくつもの分野で活動すること自体は別に珍しくない。

 異色なのは、どういうキャリアを目指しているのかがはっきり見えない点だ。05年にカンヌ国際映画祭に出席した際は、ハリウッド超大作の『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』と、イスラエルとヨルダンで撮影された超低予算のバイリンガル映画『フリー・ゾーン~明日が見える場所~』という対照的な2作品のプロモーションに精を出した。

 ファンに対して見せる趣味や関心、キャラクターも、いかにもセレブという浮ついたイメージと、芸術家的なきまじめなイメージが交ざり合っている。

 ここに、ポートマンのキャリアを理解する鍵がある。オードリー・ヘプバーンを思わせる古風な魅力を持つ女優とよく評されるが、ポートマンほど今という時代を反映したスターは珍しい。キャリアが一貫しないように見えるのは、今の若い世代が広く共有する「定まらない野心」の表れだ。

『レオン』路線からの転向

 デビュー当時からポートマンのキャリアは、互いに矛盾する2つの野心に牽引されてきた。1つは、真摯に芸術的な創造に打ち込みたいという野心。もう1つは、いろいろな活動を経験したいという野心だ。

 ポートマンはイスラエルで生まれて、アメリカ東海岸で育った。中学に上がる直前、ニューヨーク州ロングアイランドのピザ店で化粧品大手レブロンのモデルにスカウトされる。

 初めて主役級の役を手にしたのは、11歳のとき。何度ものオーディションを突破して、リュック・ベッソン監督の映画『レオン』(94年)でジャン・レノの相手役に抜擢されたのだ。演じたのは、家族を皆殺しにされた12歳の少女マチルダ。レノ演じる中年の殺し屋の愛情を得ようとする。

『レオン』は役者の演技をじっくり見せるタイプの映画で、ベッソンらしい一風変わった作品だった。ポートマンはこれで一躍脚光を浴びた。しかし当時のイメージは今とまるで違っていて、華やかさには程遠く、ぎこちなくて、どこか男の子っぽい印象だった。

 この路線は長続きしなかった。一部の人に『レオン』が児童ポルノ的な印象を与えたこともあって、「善」のイメージを打ち出そうとし始めたのだ。

 90年代のアメリカ社会で最も分かりやすい「善」と言えば、成功を収めること。テレビのトーク番組に出演して、輝かしい学業成績をしきりにアピールした。出演作を選ぶ際には、既に権力を手にしている人物や、上昇志向の強いまじめな人物の役を次第に好むようになった。

 99年、『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』にアミダラ女王役で出演。堅苦しく冷たい役で、血の通っていない巨大な置物のような印象を与えた。同じ年の後半に『地上より何処かで』が公開された頃には、「堅苦しく冷たい」というのがスクリーン上でのポートマンのイメージとして定着してしまった。

『地上より何処かで』は、ポートマン演じる娘アンが能天気な母親と別れて、名門ブラウン大学に入学するために飛行機で旅立つ場面で終わる。この映画がアメリカで公開された頃、実生活のポートマンも俳優を一時休業して、心理学を学ぶためにハーバード大学に進学した。

 こうして、マルチな才能を持つ勉強の虫というイメージが加わる。ハーバードでは、若き映画スターのキャンパスライフというより、万一のときに備えて複数の分野を掛け持ちする努力家の学生のような日々を送った。

 視覚イメージの実験と乳児の前頭葉の活動に関する実験を手伝った。詩人のジョリー・グレアムが指導する詩のワークショップにも参加。ゼミ論文が評価されて、弁護士としても有名なアラン・ダーショウィッツ教授の研究室で助手も務めた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中