最新記事

話題作

「『ザ・コーヴ』第2弾を作りたい」

2010年7月9日(金)14時17分
大橋 希

――イルカを殺して食べるのはだめで、牛や豚なら殺してもいいというのは人間側の勝手な差別にも思えるが。

 私は、自分の道徳観や価値観を人に押し付けようとは思っていない。ただ事実だけを言うと、水銀汚染された牛肉や豚肉、鶏肉、または犬の肉が売られることはない。それは違法な行為だ。

 私が日本に来て漁師やジャーナリストと話をすると、彼らは「西対東」あるいは「彼ら対我々」という対立的な議論にもっていこうとする。また、日本のメディアは私をシーシェパードやグリーンピースと同じカテゴリーに押し込めたがるが、それは間違った認識だと言っておきたい。

しかし何より重要なのは、イルカが「肉のため」に殺されていること。人間が食べたり、ペットフードや肥料にするためだが、水銀汚染を考えればこうした使い方はすべて禁止されるべきだ。水銀汚染が確認され、学校給食の利用を止めた段階ですべてのイルカ肉利用が止められるべきだったと思う。これについてはもう議論の余地はない。

これは日本だけでなく世界的な問題だ。私はフロリダ州マイアミに住んでいるが、その近くのイルカも同じように汚染されている。フランスでもカナダでも同じ。この映画が訴えているのは太地町のイルカ漁だけでなく、もっと大きな問題だ。

――――――――――――――

■追記:インタビューが行われた6月半ばは、東京、大阪などの映画館で上映中止が決まり、公開が未確定とされていた時期だった。公開が実現した後の7月8日、オバリーに電子メールで聞いた。

――日本での上映中止を求める声が一部で上がったことについて、どう感じたか。

 「日本の人々」が映画の上映中止を求めていたのではない。小さな極右団体がそうした要求を行っていた。その団体が日本人を代表しているわけではない。どう見ても彼らには豊富な資金源があるようだが、誰が資金を提供しているのだろうか?

 あの極右団体の行動は映画にとって相当の宣伝になったし、しかもそれをただでやってもらった。彼らに感謝している。

――反対活動が起こると予想はしていた?

 いや、思ってもみなかった。日本人の多くは礼儀正しく、プロの右翼活動家のように無礼で騒々しくはない。

 活動家の粗暴で無礼な手口は、かえって裏目に出たように思える。彼らはもっと大きな論争、日本国憲法第21条で守られている表現の自由、言論の自由をめぐる論争を引き起こした。

――最終的に上映が実現して、どんな気持ちか。

 『ザ・コーヴ』は『靖国』(08年のドキュメンタリー映画)とは違う。『ザ・コーヴ』はアカデミー賞受賞作だ。これからもずっと残っていく作品だし、日本での公開も実現した。その事実に私は大きな満足感を覚える。日本の人々がいよいよこの映画を見ることで、すべてがよい方向に変わっていくだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中