最新記事

映画

天国の描写は監督泣かせ

死後の世界No.1なら『ラブリーボーン』より是枝作品

2010年2月3日(水)16時20分
リサ・ミラー(宗教問題担当)

イメージは千差万別 『ラブリーボーン』(1月29日公開)が描く天国は2分でギブアップ! © 2009 DW STUDIOS L.L.C. All Rights Reserved.

死んだら天国に行きたい。たいていの人はそう思っている。しかし、映画で天国を描くのは意外と難しい。人が思い描く天国のイメージは千差万別で、これが天国だと決め付けられてもそう簡単には納得しないからだ。

 例えばピーター・ジャクソン監督の新作『ラブリーボーン』(日本公開は1月29日)。彼の描く天国は、バービー人形がLSDでラリって遊んでいるような趣だ。その天国には森もあれば氷山もあり、14歳の主人公スージーは天国の友達とファッションショーを開いたりする。この靴、ステキ! この紫、キラキラでいい感じ! 

 見ていた私は、たった2分でギブアップ。これならショッピングモールにいるほうがましだ。

 描きにくいのも無理はない。天国といえば伝統的に、私たちの想像の中では超自然の最たるものだ。最高に清く正しく美しく、完璧かつ真実。ヨハネの黙示録によれば、天国では神が「涙を拭ってくださる。もはや死はなく、悲しみも嘆きも苦労もない」そうだ。

 神学者は天国について論じ合ってきた。天国は死者同士が交流する場なのか、それとも魂が神と交わる場か。個人の願いがかなう場か、それとも個は消滅するのか。あいにく唯一無二の答えはない。天国を表現するには、映画よりもダンテの詩やバッハのオラトリオのほうが適しているのだろう。

幸せは人生の断片に潜む

 天国を描いて成功した映画は、たいていその一面だけを集中的に描いている。コメディー『あなたの死後にご用心!』(91年)は死後の審判の場面を描き、天国にふさわしいのは愛と勇気に満ちた人間だと訴え掛けた。『ゴースト/ニューヨークの幻』(90年)は、愛する人は死んでも私たちを見守っているという昔ながらのコンセプトが中心だった。

 私にとって最もよくできた天国映画は、是枝裕和監督の『ワンダフルライフ』(99)だ。死んだばかりの人々が施設に集められ、職員に「人生の中から大切な思い出を1つだけ選んでください」と言われる。選んだ思い出が、死者にとっての幸せな永遠となるのだ。

 ある男性は夏の日に路面電車の窓から吹き込んできた風を思い出す。幼い日の遠足を挙げた老女もいる。彼らのように簡単に選べる人もいるが、愛に恵まれなかった人や他人に冷たい生き方をしてきた人には、この選択は拷問に近い。

 天国という名の完璧な幸せは、意外に小さな人生の断片に潜むもの。そうした一瞬を逃さず大切にできるのが、真に祝福されし者なのだろう。

[2010年1月13日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中