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40歳になったセサミストリート

2009年7月14日(火)17時06分
リサ・ガーンジー(ジャーナリスト)

セサミが死に絶える日

 潔癖過ぎる姿勢が行き過ぎとみられたこともあった。『セサミ』が肥満に対する意識向上キャンペーンを始めると、いつもクッキーをガツガツ食べているクッキーモンスターが問題になった。そこでクッキーモンスターは、05年から「クッキーはたまに食べるもの」と歌い始めた。

 クッキーモンスターのクッキーの食べっぷりに変更はなかったのだが、一部の親たちはクッキーモンスターを健康おたくにするなと騒ぎ始めた。「この番組に大きな影響力があることが改めて分かった」と、エグゼクティブプロデューサーのキャロルリン・パレンテは言う。「余計な手を加えないほうがいい」

 いや、手を加えないわけにはいかないだろう。人間と同じで、40歳になった番組を元気に見せるには、やはり見た目をいじらないといけない。

 いまセサミ・ワークショップは、デジタルコンテンツに力を入れている。過去のエピソードも無料で見られるウェブサイトもスタートさせた。

 ポッドキャストによる映像配信も始めた。携帯電話にダウンロードしておけば、スーパーのレジで長い列に並ぶときなどに、子供の気を紛らわすことができる。

 技術面でいえば、今の『セサミ』は世界を変えるより、世界に追い付くことで精いっぱいなのかもしれない。「常に新しいものを作り、試し続けなくてはいけない」と、セサミ・ワークショップのゲーリー・ネルCEO(最高経営責任者)は言う。「そうしないと、番組は死んでしまう」

『セサミ』が死ぬ? そんなことがあり得るのだろうか。

 確かに質の高い子供番組は増えてきた。しかし『セサミ』のように綿密な研究を行った上でエピソードを制作したり、社会に影響を与えようとしている番組は、ほんのひと握りだ。

 これまで『セサミ』はアメリカを、世界の多くの社会を、いい方向に変えてきた。寛容のメッセージは今も必要とされているし、親と子が楽しめる教育番組はまだ少ない。そうだとすれば、『セサミ』のキャラクターたちは、次の世代の子供たちも楽しませなくてはならない。

「セサミストリートには、どうやって行くの?」と、テーマソングは歌う。でも、これからはこう歌ったほうがいいのかもしれない。「セサミストリートには、まだずっと行けるの?」 

 (筆者には『子供の心に忍び寄るもの――映像メディアが0~5歳児に与える影響』の著書がある)

[2009年6月17日号掲載]

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