最新記事

映画

セックスと愛とシングルライフ

2009年4月7日(火)16時52分
ジュリア・ベアード

独身女性への根強い偏見

 ヴォーグ誌のマージョリー・ヒリスは1936年に、こう書いている。「過去20年間、多くの人が未婚女性の性生活について執筆し、具体例を記してきた。そうした情報に接した女性のなかには、自分は世界でただ一人の処女ではないかと思う人もいるかもしれない」

 ヒリスは、結婚しない女性がニューヨークで急増している点に着目。『独身だけど、それでオーケー』を出版した。

 シングルの女性に対する偏見は、今でも根強く残っている。独身女性は、「かわいそう」という目で見られ、ボーイフレンドが多いと尻軽女とさげすまれる。

 57年の世論調査では、アメリカ人の80%が、独身を選択している人に対して「不健康」「ノイローゼ」「不道徳」というイメージをいだいていた。

 だが20世紀末には、避妊ピルが普及し、女性がやりがいのある仕事に就くケースが増えたため、多くの女性が晩婚を選択するようになった。

『SATC』の放映が始まった98年、結婚経験のない18歳以上のアメリカ人女性の数は2100万人に達した。それでも、「オールドミス」は孤独で、哀れだという見方は依然として強かった。

 だから20〜30代の女性は『SATC』の放映が始まると、テレビにかじりついて声援を送った。女性は200年近くも、こうした内容の作品を待っていたのだから。

 4人の主人公のように、並はずれてスリムな体形や、リッチな暮らしを手に入れるのはむずかしい。でも、彼女たちの不器用な恋愛、真っすぐに愛を求める姿勢、退屈な生活に陥ることへの不安、伝統的な男女関係への不満に、多くの女性は共感を覚える。

 キャリーは30代後半のとき、ハンサムだが心臓が止まるほどのときめきは感じられないエイダンとの結婚を考える。けれどもウエディングドレスを試着するとパニックに陥り、体中に発疹ができてしまう。「(私には)花嫁の遺伝子が欠けている」と、彼女は嘆く。

 キャリーはその後で、セックスコラムにこう書いた。「社会は進歩していると言うが、達成すべき人生の目標は変わらない――結婚、出産、家庭だ。だが結婚を真剣に考えた顔に笑みではなく、発疹が広がったら?  それは社会が悪いのか、私が悪いのか」

『SATC』のテーマの一つは、保守的な価値観が支配的な社会で、どこまで自分の理想を貫くべきかという問題だ。妥協せずに運命の愛を待つことは、少し前まで過激な生き方とみなされていた。

 キャリーによれば、運命の愛とは「本物の愛。ばかみたいで、思うようにいかないけれど、お互いなしでは生きていけないような愛」だ。「すぐに妥協して結婚する人もいれば、王子様探しを適当なところであきらめる人もいる。でも、完璧な相手が見つかるまで頑張り続ける人だっている」とも、彼女は書いている。

 だが運命の愛を待っていれば、10年、20年が過ぎてしまうかもしれない。待ち続ければ、妊娠可能な年齢を超えてしまう可能性もある。『SATC』はさまざまな角度から恋愛を描きながらも、この問題は避けて通っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ失業率、1月6.2%に上昇 景気低迷が雇用に

ワールド

ミャンマー軍事政権、非常事態宣言を延長 「総選挙の

ワールド

焦点:トランプ氏が望む利下げ、米国以外で実現 FR

ビジネス

12月住宅着工戸数は前年比マイナス2.5%、8カ月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 8
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 9
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 10
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中