セックスと愛とシングルライフ
独身女性への根強い偏見
ヴォーグ誌のマージョリー・ヒリスは1936年に、こう書いている。「過去20年間、多くの人が未婚女性の性生活について執筆し、具体例を記してきた。そうした情報に接した女性のなかには、自分は世界でただ一人の処女ではないかと思う人もいるかもしれない」
ヒリスは、結婚しない女性がニューヨークで急増している点に着目。『独身だけど、それでオーケー』を出版した。
シングルの女性に対する偏見は、今でも根強く残っている。独身女性は、「かわいそう」という目で見られ、ボーイフレンドが多いと尻軽女とさげすまれる。
57年の世論調査では、アメリカ人の80%が、独身を選択している人に対して「不健康」「ノイローゼ」「不道徳」というイメージをいだいていた。
だが20世紀末には、避妊ピルが普及し、女性がやりがいのある仕事に就くケースが増えたため、多くの女性が晩婚を選択するようになった。
『SATC』の放映が始まった98年、結婚経験のない18歳以上のアメリカ人女性の数は2100万人に達した。それでも、「オールドミス」は孤独で、哀れだという見方は依然として強かった。
だから20〜30代の女性は『SATC』の放映が始まると、テレビにかじりついて声援を送った。女性は200年近くも、こうした内容の作品を待っていたのだから。
4人の主人公のように、並はずれてスリムな体形や、リッチな暮らしを手に入れるのはむずかしい。でも、彼女たちの不器用な恋愛、真っすぐに愛を求める姿勢、退屈な生活に陥ることへの不安、伝統的な男女関係への不満に、多くの女性は共感を覚える。
キャリーは30代後半のとき、ハンサムだが心臓が止まるほどのときめきは感じられないエイダンとの結婚を考える。けれどもウエディングドレスを試着するとパニックに陥り、体中に発疹ができてしまう。「(私には)花嫁の遺伝子が欠けている」と、彼女は嘆く。
キャリーはその後で、セックスコラムにこう書いた。「社会は進歩していると言うが、達成すべき人生の目標は変わらない――結婚、出産、家庭だ。だが結婚を真剣に考えた顔に笑みではなく、発疹が広がったら? それは社会が悪いのか、私が悪いのか」
『SATC』のテーマの一つは、保守的な価値観が支配的な社会で、どこまで自分の理想を貫くべきかという問題だ。妥協せずに運命の愛を待つことは、少し前まで過激な生き方とみなされていた。
キャリーによれば、運命の愛とは「本物の愛。ばかみたいで、思うようにいかないけれど、お互いなしでは生きていけないような愛」だ。「すぐに妥協して結婚する人もいれば、王子様探しを適当なところであきらめる人もいる。でも、完璧な相手が見つかるまで頑張り続ける人だっている」とも、彼女は書いている。
だが運命の愛を待っていれば、10年、20年が過ぎてしまうかもしれない。待ち続ければ、妊娠可能な年齢を超えてしまう可能性もある。『SATC』はさまざまな角度から恋愛を描きながらも、この問題は避けて通っている。