事件記者、保育士になる?「事件取材の鬼」と呼ばれた元朝日新聞記者が選んだセカンドキャリア
40年ぶりの入学式/shell_ghostcage-pixabay
<角刈りコワモテの元朝日新聞警視庁キャップは、63歳で短大保育学科に入学した>
地下鉄サリン事件をはじめ、誘拐、殺人、暴力団抗争などを取材し、伝説の事件記者として知られる緒方健二氏。39年の記者人生を思うところあって卒業し、2022年4月、私立東筑紫短期大学の保育学科に入学した。
ピアノが弾けない、読み聞かせれば講談調、童謡はムード歌謡に......。天職だった事件取材の現場を離れ、全く違う道を選んだのはなぜだったのか? 10代後半の同級生と切磋琢磨で学業に励んだ日々を『事件記者、保育士になる』(CCCメディアハウス)にまとめた。
※全3回の第1回(続きは19日、20日に公開します)
火打石と火打金代わりに百円ライターをカッチカチ
2022年4月5日の朝は快晴でした。春にしては強い日差しが目に染みます。新聞記者時代からの「戦闘服」たる黒スーツに漆黒のネクタイを締め、出立(しゅったつ)の支度にとりかかります。
ネクタイは、送別会を催してくれた新聞社の後輩たちから頂戴しました。ひそかに敬慕するプロアイススケーター、羽生結弦さんもショーで時折着用しています。節目の大勝負に欠かせません。白ワイシャツのボタンは最上段まで留めました。気合いの表明であるだけでなく、たるんだ首のしわを隠す効能もあります。
ハンカチよし、携帯灰皿よし、財布よし。腰痛緩和ベルトよし。
持ち物確認もおさおさ怠りなし。
4月5日は、プロ野球のスーパースター、巨人の長嶋茂雄さんが公式戦デビューした日でもあります。当方の生まれた1958年のことでした。国鉄(現ヤクルト)の大エース、金田正一投手から4打席連続三振をくらいました。
長嶋さんに憧れて野球を始めた当時の幼稚園児の新たな門出です。愛用のバットで素振りをくれ、邪気を払います。見送りなんていりません。清めの切り火があればいい。火打石と火打金代わりに百円ライターをカッチカチ、よし、行って来るぜ。
きょうは短期大学の入学式です。久々の学生生活の初日に遅刻は許されません。タクシーを奮発し、意気揚々と会場に向かいます。
道中、サイレンを鳴らして緊急走行するパトカーとすれ違いました。常ならば事件記者の哀しい性で、Uターンしてパトカーを追いかけるところ、本日はじっとこらえました。
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