「脳まで筋肉の柔道選手」と中傷された彼女が医学部合格を果たした、たった一つの理由
世界柔道選手権で優勝、そして獨協医科大学医学部に合格と文武両道を実現した朝比奈沙さん 撮影=市来朋久
二兎を追って二兎を得ることができた人は何が違うのか。2018年の世界柔道選手権などで優勝(金メダル)した朝比奈沙羅選手は2020年春、獨協医科大学医学部に合格した。「脳まで筋肉の柔道選手に医学部合格なんて......」などと誹謗中傷を受けたにもかかわらず、その苦難を乗り越えられた理由を明かした――。
医師免許と五輪出場を狙う朝比奈沙羅と父輝哉さんの物語
「朝比奈家は普通の家じゃない。子供の頃からずっとそう思ってきました」
2017年、マラケシュ世界柔道無差別選手権優勝、18年、バクー世界柔道選手権78kg超級優勝(金メダル)のほか、数多くの国際大会を制覇してきた柔道家・朝比奈沙羅選手。彼女は、自身が育ってきた家庭環境について、こう語る。
「テルヤさん、あ、父のことです。両親のことをテルヤさん、ミツコさんって呼んでいます。幼稚園の頃、父とキャッチボールをしていて、取れなくて顔にボールが当たったことがあるんです。父は学生時代水球をやっていて、球がめちゃくちゃ速い。それなのに娘の顔を心配するどころか『何やってんだ! 顔で止める気持ちでやれ!』って。普通じゃないですよね」
利き手ばかりを使っていると体のバランスが崩れると、父の言いつけで朝食は右手で箸を持ち、昼食は左手、夕食は右手で、翌朝は左からと、左右交互に使って食べさせられた。
「やる以上は徹底的に。それが朝比奈家の家訓だと言われてきました。箸だけじゃなく、左右どちらでもボールが投げられるし、両足でボールを蹴ることもできます」と沙羅選手。
「巨人の星」の星飛雄馬と父一徹のようなエピソード
まるで、『巨人の星』の星一徹と飛雄馬親子のエピソードのようだが、こうした父の教育が見事に実を結び、父の念願通り、沙羅選手は日本を代表するアスリートへと成長......したのかと思いきや、事情は少し違うらしい。
東京西徳洲会病院麻酔科に勤務する父・朝比奈輝哉氏に、娘の教育方針を聞いた。
「実は、アスリートに育てようと思ったことは一度もないのです。私も妻も医療系の仕事なので、沙羅も医師にしたかった。やはり資格というのは生きるための強い武器。だったらどこでも通用する医師免許を持てば、生きる上での選択肢が増えます」