最新記事

教育

「脳まで筋肉の柔道選手」と中傷された彼女が医学部合格を果たした、たった一つの理由

2021年11月30日(火)19時15分
朝比奈 沙羅(柔道選手) *PRESIDENT Onlineからの転載

身長180cmを超える大男で、言語明晰。自信に満ちた大きな声で、子育て哲学を語る。なかなかの迫力である。

「ただ、勉強一筋で夜10時まで塾通いをさせるような教育法は違うと思っていました。体力もつけられないし、なによりも中高受験でバーンアウトしてしまう恐れがあります。いろいろな習い事をさせ、沙羅の力を総合的にアップさせていくという方針を採りました。頭と体は連動していますから、スポーツも本格的にやらせました」

文武両道を続け、中学受験で難関の渋渋に合格した

公文、水泳、バスケットボール、エアロビクス、コルネットにピアノ。大脳前頭葉視覚野が活性化するという話を聞き、そろばんも習わせた。水泳は4泳法を習得。筋肉の柔軟性をしっかりと養うことができ、後の柔道に大いに役立った。すべての習い事は輝哉氏が決め、分刻みのスケジュールも輝哉氏がマネージメントしていた。

柔道だけは、沙羅選手自身が「やりたい」と言いだした。小2のとき。たまたま習い事が休みの日、沙羅選手はアテネ五輪をテレビで見ていて、鈴木桂治選手が、小外刈りでロシアのタメルラン・トメノフ選手を破った試合に強い感銘を受けたという。

朝比奈沙羅選手「鈴木選手の姿が"キラキラしていた"と目を輝かせて言うんです。初めて自分からやりたいと言いだしたので、近くの警察署に行ったら、講道館を薦められました」(輝哉氏)

父娘で講道館を訪ねると、入門を認められ、その日のうちに練習開始。もちろん「やる以上は徹底的に」という朝比奈家家訓に忠実な輝哉氏のこと。柔道の練習でも、基本である「前回り受け身」を毎日100本、親子で一緒に続けた。

沙羅選手には柔道の天賦の才があったようで、練習を始めて2年ほどで講道館の先生から「沙羅、お前は普通に練習をしていれば、将来必ず全日本クラスの選手になる。今からインタビューを受ける練習もしておこう」と太鼓判をおされたという。

文武両道の生活を続けた沙羅選手は、中学受験で渋谷教育学園渋谷中学校に合格する。そして、中学2年のときには全国中学校柔道大会で優勝。以後、国内外の強豪たちと戦い、ついには世界王者にまで上りつめるのである。

中学生の沙羅をオペ室に入れ、本物の手術を見せた

朝比奈沙羅選手の父 輝哉氏図らずも娘が柔道で快進撃を始めた一方で、輝哉氏の「沙羅を医学部に進学させる」という夢は、「柔道と勉学との両立」という難しい時期になってもまったく揺らぐことはなかった。

「スポーツ選手のセカンドキャリアを考えると、現状、日本では厳しい環境にあります。引退した後、どうするか。選択肢を増やすためにも勉強を続けることは必須でしたね」(輝哉氏)

大学受験や国際大会のインタビューに備えて英語力を鍛えるため、どんなに眠くてもラジオの基礎英語を聞かせ、その日のダイアログ(対話)を完璧に暗記するまでは寝かせなかったという。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中