「指導者なし、練習は週2回」東京理科大の陸上部員が学生日本一を獲得できた「秘密」とは
陸上部に限らず、日本人は結果と同じくらい努力を評価する風潮があり、「努力=時間や数」という考えが強い。たとえば、「毎日20km走っています」「毎日、素振りを1000回やっています」「毎日、腹筋を500回やっています」とか、「1年間、1日も休まずに練習をしてきました」というものは努力の象徴として称賛されることが多い。
そうした努力は"正解"なのだろうか。練習のための練習になっては時間の無駄だ。それどころか練習のやりすぎは故障のリスクが高くなる。男子マラソンで日本記録を2度塗り替えて、東京五輪で6位入賞を果たした大迫傑もこんなことを言っていた。
「できる限りの無理はしてきましたが、自分自身のキャパを超える無理はしませんでした。それがすごく大事だと思っています。この感覚は、自分を深く掘り下げていかないとなかなかつかむことができません。やらされている練習は故障が多くなると思うんですけど、自分主体で考えてやっていくと、故障は減るのかなと思います」
何のためのトレーニングをしているのか。それをきちんと理解したうえで取り組むことがポイントになってくる。
スランプで必要なのは「練習」ではなく「休息」
またスランプになると、「原因は練習が足りないから」だと周囲も自分も考えがちだが、実際はその逆というパターンが多い。疲労が溜まる→筋肉が硬直→可動域が狭くなる→従来の動きができなくなる、という流れだ。
調子が悪いときほど、練習量を増やすのではなく、しっかりと休養したほうがいい。そうした考えを持ち始めた指導者や選手も増えている。彼らは練習を増量すること以上に、ふだんから調子が悪くならないように、常に身体をメンテナンスすることに気を配る。
以前、高校・大学・実業団で活躍して、世界陸上の男子マラソンにも出場した元選手から面白い話を聞いた。彼は現役引退後、走ることはなかったという。慣れないデスクワークが続くなかで下半身がむくむようになりストレスも増加。そこで半年ぶりにランニングを再開すると、身体に驚くべきことが起こったという。
「一度しっかり休んだことで、はじめはすぐに筋肉痛になりました。でも、徐々に走れるようになってくると、自分の身体がこんなにも動くんだということを知ったんです。身体からエネルギーがみなぎってくる感じ。これは現役中にはなかった感覚です。現役中は、休んだつもりでも慢性疲労が常に残っているような状態だったと思いますね。なので、今は週に2回は完全休養するようにしています」
元選手は市民ランナーとなったが、トレイルレースに参加するかたわら、1500mを3分台で走破してしまうほどの走力を誇っている(日本記録は3分35秒42)。
マラソン選手として活躍するプロランナーの川内優輝も市民ランナー時代、月間走行距離は600kmほどだった。実業団選手の6割くらいだ。
今回の東京理科大1年生・友田真隆の快挙は、日本のスポーツ界にいまだ根付いている根性論のトレーニング至上主義を蹴散らすのに充分なインパクトがあったと思うのだ。
酒井政人(さかい・まさと)
スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)