出口治明「人間は皆そこそこに正直でかつずる賢いしお金に汚い。基本的には信頼するしかない」
Newsweek Japan
<部下を信用するにはどうすればいいか、監視社会で人の倫理観は変わるのか。「労働と信用」「カネと信用」について立命館アジア太平洋大学の出口学長に聞いたインタビューの第2回>
経済記者として、大企業の経営者など財界人を取材してきた栗下直也氏――2冊目の著書となる『得する、徳。』(CCCメディアハウス)では、なぜ経営者はよく論語を壁に貼っているのかという素朴な疑問からスタートし、信用とビジネスでの成功の切り離せない関係について解説している。
ここでは、その刊行を記念し、立命館アジア太平洋大学(APU)の出口治明学長に「労働と信用」「カネと信用」についてインタビュー。3回連載の2回目となる今回のテーマは「部下を信用するにはどうすればいいか」だ。
※インタビュー第1回:出口治明「日本は異常な肩書社会。個人的な人脈・信用はなくても実は困らない」
社会人も管理職ともなれば部下との関係に頭を悩ます人は多いだろう。『得する、徳。』では、500近い企業を立ち上げた「日本資本主義の父」こと渋沢栄一、東京芝浦電気(現・東芝)再建への尽力で知られる後の経団連会長・土光敏夫、そして、篤志家として名高い日本理化学工業会長・大山泰弘など、偉人たちのマネジメント術も多数紹介されている。
上場企業で経営者の経験もある出口学長の場合は、部下をどのように信用し、付き合ってきたのだろうか。
――出口さんの愛読書である『貞観政要』(唐の皇帝の李世民と臣下たちの言行録)にも、マネジメントする人は部下を信頼しろとありますね。ただ、残念ながら現代の日本では、部下を信用せずにガチガチに管理したがるオジサン管理職も少なくありません。出口さんはどうでしたか。
そりゃ、100%信用していましたよ。信用できなかったら、どうするんですか。最終的には、どこかで信用する以外の方法はないわけですから。
信用しないということは、最終的には自分で全部やることになりますから、とてもしんどいじゃないですか(笑)。人とご飯を食べたりお酒を飲んだりする時間も減るし、本も読めなくなる。上司部下に限らず、対人関係は相手を疑いだしたら、きりがないですよ。
人間は皆、そこそこ正直で、でも同時にずる賢いし、そこそこお金に汚い。立派な人なんか、皆が思っているほどいないんですよ。僕は(作家でベ平連の運動家だった)小田実さんの「人間みなチョボチョボや」を信奉してるんです。みんな同じやと、同じ穴の狢(むじな)や、大して変わらない存在だと。
似たような者同士だから、基本的には信頼してますよ。別に裏切られても、僕が大金持ちでしたら痛い目にも遭うかもしれませんが、お金はほとんど持っていません。僕自身は「悔いなし、貯金なし」の人生で、皆さんが思うほど、お金はないんですよ。日本生命時代に会社の積み立て貯金の額が少な過ぎて部下に心配されたくらいです。
昔から賢人がいっています。「去る者は追わず、来る者は拒まず」と。来たい人は僕に興味があるわけだから、来たら受け入れて話をしますし、信用すればいい。去る人は僕に魅力がないから去っていくのだから、追いかけてもしかたがない。