最新記事

インタビュー

出口治明「日本は異常な肩書社会。個人的な人脈・信用はなくても実は困らない」

2020年3月30日(月)16時50分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

Newsweek Japan

<......しかし退職後の人生も長い。個人としていかに信用を高められるか、何を判断軸に人とのネットワークをつくればいいか。立命館アジア太平洋大学の出口学長に聞いた>

収束の気配がない新型コロナウイルス騒動は、期せずして「自分さえよければ」とばかりに利己的な行動に走る個人の存在を浮き彫りにし続けている。

マスクやトイレットペーパーの買い占めにとどまらず、他者が困っている状況に便乗して、それらを転売して利益を上げようとする者が後を絶たないというニュースに暗澹とした気持ちになった人も多いだろう。

かつて「自分さえよければ」という態度は一端の大人として恥ずかしいものであり、たとえ建前であっても「人のために」と動くことが美徳ではなかったか。

個人レベルでも、会社などの組織レベルでも、利己ばかりを追求していては人から信用を得られない。SDGsの推進など、世界的には以前に増して利他を重んじる傾向が強まっていたはずだった。

経済記者として多くのトップ経営者や財界人の取材をしてきた栗下直也氏は、成功者と利他の関係に注目して『得する、徳。』(CCCメディアハウス)を執筆。

昔から「ビジネスには信用が大事だ」と言われ、昨今では「信用があれば生きていける」といった議論までなされているが、信用とは一体なんなのか? 漠然とした「信用」を読み解くヒントを渋沢栄一や土光敏夫などの名経営者が実践してきた「徳を積む」行為に求めた。

利己主義者の悪い面が目立つ昨今だが、4月には社会人となり新生活をスタートする人も多いだろう。働き方改革や採用の多様化が進む今、社会人はどのように気持ちよく企業社会を生きるべきだろうか。

ここでは、『得する、徳。』の刊行を記念して、労働と信用のバランスや、カネと信用の関係について、立命館アジア太平洋大学(APU)の出口治明学長に3回連載で聞く。1回目は「信用を高めるにはどうすればよいか」。

◇ ◇ ◇

――「信用があればカネはいらない」「信用を積めばカネはついてくる」との主張を最近、あちこちで耳にするようになりました。

「その通りです。信用はとても大事ですよ」と言いたいところですが、今日は、それって本当ですかというところからお話ししましょう。グローバルに見たら、信用なんてどうでもいい社会もあるわけですよ。

――いきなり、ちゃぶ台をひっくり返されるんですね。

立命館大学の小川さやか教授が興味深い指摘をしています。彼女は香港に住むタンザニア人の商売を調査研究したのですが、彼らはお金がない仲間にはおごるし、住む場所に困っていれば、自宅に泊める。

とはいえ、彼らがお人よしで、人を裏切らないというわけではないんですよ。信用し合っているわけでもない。むしろその逆で、仲間を欺いてでも商売に食い込めないか、かすめ取れないかと常に考えを巡らす。

困っている人を助けるのは、あくまで「生きる知恵」であって、「信用を積もう」とは思っていない。やり過ぎず、ずる賢く、たくましく生きている。だから、政治家とも付き合えば売春婦とも付き合う。

つまり、信用が大事といっても、世界では信用という概念が必要かどうかも、信用が何によってもたらされているかも全部違うわけですね。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

日経平均は3日ぶり反発、エヌビディア決算無難通過で

ワールド

米天然ガス生産、24年は微減へ 25年は増加見通し

ワールド

ロシアが北朝鮮に対空ミサイル提供、韓国政府高官が指

ビジネス

午後3時のドルは154円後半、欧州PMIでユーロ一
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中