もう1つの<異端>大学教授──学歴はなくとも研究業績は博士に匹敵する人たち
原子力の安全性問題、生命倫理問題、地球環境問題等に対する彼の批判的な見解にみられるように、科学技術への過剰な依存が人間社会に何をもたらしたものかを常に監視し、警告しているのが彼の科学技術論の基本である。
奥村氏は旧制第六高等学校入学後、戦後の学制改革により、岡山大学法文学部卒業となり、産経新聞記者、日本証券経済研究所主任研究員を経て、龍谷大学経済学部教授や中央大学経済学部教授に就任している。彼は「法人資本主義」という形で、日本の資本主義の構造的特質を明らかにしたことで著名である。
中沢氏は高校卒業後、郵便局に勤務し、全国逓信労働組合本部勤務を経て、1989年(当時、44歳)に立教大学法学部に入学した。1993年に卒業。中小企業のフィールドサーベイを通じて、日本の中小企業の優秀性を実証的に証明した(『中小企業新時代』岩波新書、1989年)。彼は豊富なフィールドワークをもとにした中小企業論を数多く発表し、兵庫県立大学・福井県立大学・福山大学等の教授を歴任し、現在は、兵庫県立大学大学院客員教授となっている。
民俗学者の赤坂氏は東京大学文学部国史学科卒業後、どのようにして、民俗学の学問的な専門知識やフィールドワークを深めていったのかについてはよくわからないが、彼の数多くの著作の中でも、初期の著作である『異人論序説』(砂子屋書房、1985年)、『排除の現象学』(洋泉社、1986年)、『王と天皇』(筑摩書房、1988年)、『境界の発生』(砂子屋書房、1989年)、『象徴天皇という物語』(筑摩書房、1990年)、『山の精神史』(小学館、1991年)をみれば、自らの専門性を極めていくための学問的な精進をされたことがよくわかる。
そのためか、1988年から大学の非常勤講師(法政大学・立教大学等)を務めている。その後も数多く民俗学関係の著作を刊行し、1992年には新設の東北芸術工科大学教養部助教授に就任し、1996年には同大学教授、1999年に同大学東北文化研究センター所長となっている。
その後、2011年に学習院大学文学部教授として移籍している。大学院で専門的な研究に従事せず、旺盛な知的関心と卓抜なる執筆によって、民間学者としての立場を忘れず、学問的専門性を高めてきているという点では、すぐれた研究者であることは間違いないだろう。
これらの独学で大学教授になった人たちの共通点は、本人の学問的資質があることはもちろんではあるが、(1)逆境にも負けず、学問的な真理を追求してきたこと、(2)知的好奇心が旺盛であったこと、(3)知的執着心がケタ外れに大きかったこと、(4)研究成果を著作や論文で世に問うてきたこと、などが挙げられる。
独学で学問をするということは、大学院で指導教官に教えてもらうこと以上に、自由な発想で学問ができることや常に新しい学問的発見を見出すことに意欲を燃やすことにつながり、だからこそ、大学教授のポストを獲得することができたといえるだろう。
専門分野が超領域化・複合化しつつある今日、多角的な視点と多様な価値観をもつ、独学型の大学教授の存在は日本の学問分野の価値を高めることに貢献していくことが期待されるだろう。
[筆者]
松野 弘
社会学者・経営学者・環境学者〔博士(人間科学)〕、現代社会総合研究所理事長・所長、大学未来総合研究所理事長・所長、一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会副会長、岡山県津山市「みらい戦略ディレクター」等。日本大学文理学部教授、大学院総合社会情報研究科教授、千葉大学大学院人文社会科学研究科教授、千葉大学CSR研究センター長、千葉商科大学人間社会学部教授等を歴任。『「企業と社会」論とは何か』『講座 社会人教授入門』『現代環境思想論』(以上、ミネルヴァ書房)、『大学教授の資格』(NTT出版)、『環境思想とは何か』(ちくま新書)、『大学生のための知的勉強術』(講談社現代新書)など著作多数。
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