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なぜ、日本は<異端>の大学教授を数多く生み出したのか

2019年6月27日(木)19時10分
松野 弘(社会学者、大学未来総合研究所所長)

作家の高橋源一郎氏は大学除籍(横浜国立大学経済学部除籍)にもかかわらず、文芸評論家の加藤典洋氏(1986年から2005年まで明治学院大学国際学部に助教授・教授として勤め、2005年に早稲田大学国際教養学部教授として移籍し、2014年に退職している)の後任として、2005年に明治学院大学国際学部教授に就任している(2019年3月退職)。

また、評論家という職業も同様で、文芸評論家から社会評論家に至るまで種々雑多いるが、この仕事だけでは飯が食えないために大学教授になっている人が多い。

保守派の論客、並びに、文芸評論家の福田和也氏は慶應義塾大学の大学院文学研究科修士課程を修了しているが、あの著名な評論家である故江藤淳氏の鞄持ちというか、秘書役を務めてきたということで、江藤淳の後任者として、現在では、慶應義塾大学環境情報学部の一般教養担当の教授を務めている。もちろん、文芸評論家としての実績は十分に残しているが、学者としての評価となると別問題だ。

尾木ママこと、尾木直樹氏もマスコミに登場する時は教育評論家の名称で登場しているが、彼は早稲田大学教育学部卒業後、中学校・高校の教員を22年間勤め、教育評論家としてメディアに登場した後、なぜか、2004年に法政大学の新学部、キャリアデザイン学部教授となっている(現在は特任教授)。

出版業界の売れっ子、教育評論家の齋藤孝氏も明治大学文学部教授の肩書であるが(1994年に公募で採用され、明治大学文学部教職課程専任講師となる)、実際は教職課程専任の教員である。

彼は2001年に『声に出して読みたい日本語』(全5巻、草思社)が250万部のベストセラ-となり、マスメディアに登場することになった。これまで異常なほど数多くの著作を刊行しているが、教育学者・齋藤孝として評価されるべき学術的な著作・論文はほとんどない。

明治大学文学部の専任講師時代に、『宮沢賢治という身体』『教師=身体という技術』(いずれも世織書房、1997年)という学術的な著作を刊行しているが、それ以降は評論的な著作ばかりである。

ここまでくると、この人は一体、本当に大学教授なのか、評論家なのか、タレントなのか、訳がわからなくなってくる。

この点、テレビのコメンテーターとしてよく登場する評論家の宮崎哲弥氏は慶應義塾大学文学部卒業後、雑誌『宝島30』の執筆活動から始まり、政治・宗教・文化にわたる多彩な評論活動を重ねてきているということで、評価したかったのであるが、2006年に京都産業大学客員教授を引き受けたということで、この人も大学教授という肩書が欲しかったのかと思うと大変残念なことである。大学教授としての肩書がなくても、彼ならば評論家として十分に活躍できるはずである。

これまで見てきたように、作家や評論家で大学教授になっている人たちの大半は大学の学部卒業のみで大学で文学論等を教えているのである。小説を書くことと文学論を講じることは全く別の次元である。

大学院で文学を研究したという学術的経験がないと学生指導も無理である。小説の書き方を教えるのであれば、カルチャー・スク-ルや専門学校レベルで十分だと考えるのは筆者の思い込みであろうか。

このように、作家・評論家は大学における教育と研究を行うだけの教育・研究業績と学位(少なくとも修士学位は必要)がないにもかかわらず、安定した経済的報酬があるということで、大学教員として大学にもぐり込んでいるのが実情なようである。

[筆者]
松野 弘
社会学者・経営学者・環境学者〔博士(人間科学)〕、現代社会総合研究所理事長・所長、大学未来総合研究所理事長・所長、一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会副会長、岡山県津山市「みらい戦略ディレクター」等。日本大学文理学部教授、大学院総合社会情報研究科教授、千葉大学大学院人文社会科学研究科教授、千葉大学CSR研究センター長、千葉商科大学人間社会学部教授等を歴任。『「企業と社会」論とは何か』『講座 社会人教授入門』『現代環境思想論』(以上、ミネルヴァ書房)、『大学教授の資格』(NTT出版)、『環境思想とは何か』(ちくま新書)、『大学生のための知的勉強術』(講談社現代新書)など著作多数。

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