人材採用に悩む中小企業が、P&Gの「儲かる人事」を真似るべき理由
人事の仕組みを作ることこそ社長の仕事
中小企業であっても、効果的で生産的な人事はできる。そのために必要なのは、各部署のリーダーがもう少し目配りと気配りをすることだ。そう聞いて、「わが社の部課長にできるだろうか」と不安に思うかもしれない。だが松井氏が指摘するように、「できない最大の原因はやらないこと」だ。
それは経営者にも言える。人事施策や人事戦略というのは、トップの決断があれば全て実行可能だ。優秀なスタッフがいなければできないわけではないし、松井氏によれば、人事部という組織も必ずしも不可欠ではない。それよりも、まずはトップ自身が人事について正しく理解することが重要だ。
特に「人事」と聞くと、人員の確保や適材適所の配置、あるいは昇進や昇格の評価といった信賞必罰・論功行賞のことだと考える人が多い。もちろん、そうした「後処理」も重要ではあるが、これだけでは「手段と目的を混同している」ことになり、正しい理解とは言えない。
人事の目的とは、会社のミッション(経営理念)を達成するために従業員の意欲を高め、最も生産性高く働けるようにすることだ。言い換えると、会社を儲けさせる人、組織に貢献する人を作ることが、人事本来の目的ということになる。評価や処遇は、そのための手段に過ぎない。
儲かる会社を作ることが社長の仕事なのだから、その意味において、人事こそが社長の仕事だ。ただし、社長がやるべきは「仕組み」を作ること。中小企業では、特に評価は社長の価値観によるものとなるため、ラインのリーダーたちが理解・共感し、それに従って評価できる仕組み作りが必要となる。
このように人事の基軸は、会社の経営理念にある。では、その経営理念とはどこから出てくるのかと言えば、それはやはり経営者自身だ。トップが人事に関心を持たないということは、会社を儲けさせることに関心を向けていないと言っても過言ではない。
「人事なくして人材なし」企業経営は人事そのもの
「マネジメントの権威」と称されるピーター・ドラッカーは「経営とは人を通じて成果を出す」ことだと言い、「経営の神様」松下幸之助は「企業は人なり」と述べた。まさに、企業は人によって成り立っているのであり、企業経営とは人事そのものだと言える。だからこそ、「人事の力とは社長の力」なのだと松井氏は訴える。
人事戦略・人事施策は、会社が儲かるための経営ツールのひとつだ。本書のタイトルには『経営戦略としての「儲かる人事」』とあるが、人事とは本来、「儲かる(会社にするための)人事」なのだ。