最新記事

リーダーシップ

期待に応えず、他人に期待しないほうがうまくいく理由

2018年1月20日(土)17時20分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

実際に清宮さんがやっていたその練習メニューを生の目で見たことがなかったので、意見を言った選手たちや他のコーチ陣にそのメニューのやり方を聞いたり、実際の練習ビデオをチェックするなどして、早速、選手の要望どおりに練習メニューを実践したのである。

すると最初のうちは、選手たちもうれしそうに練習をしていたものの、途中から私の背中の辺りで誰かが「あーあ、清宮さんだったら、もっと具体的なアドバイスがあったのになあ。うまくいかないときは、笛で練習を止めて、見本を見せてくれたのに。これだと、何がいいプレイで何が悪いプレイかよく分からないままやらないといけないから意味ないなあ」とつぶやく声が聞こえた。

要するに、見よう見まねで他人が作った練習メニューを実施しても、その練習メニューを考案した人間でなければ、その真意を伝えることはできない。つまり、練習の内容は悪くないにしろ、質の高い練習を指導することはできない。

選手からの期待に応えることで、一瞬の満足は得られるだろうが、本質の部分で選手の期待に添うことは非常に難しいといえる。

だから、自分で無理だと分かっていること、または、自分のスタイルには添わないものに対しては、最初から、期待に応えないようにしている。それは、結局は期待を裏切らないためである。

さらに、期待にそもそも応えない態度をある一定期間貫けば、私の経験上、最初はフォロワーから雑音が聞こえるものの、そのうち彼らは期待しなくなり、諦める。

諦めてもらえれば、もう、リーダーの勝ちである。それがフォロワーの自律の一歩といえよう。

中竹スタイル3 ■他人に期待しない

私は他人の期待に応えないだけでなく、基本的に他人に期待しないことにしている。なぜか。それは、他人に過度な期待をすると、がっかりしたり、怒りを覚えたりするからである。例えば、私の場合、普段からオーラを放っていないということもあり、人からよく馬鹿にされたり、文句を言われたり、生意気な態度を取られることがある。もちろん、冷静に考えれば、むかつくのが当然だが、そもそも「皆は私のことなんか、どうせ見下しているんだろうな」と理解していると、彼らの態度が至極当然に見えてくる。

そんなとき、しばしば、私ではなく、周りの人間の方が「中竹、学生に、あんな態度とらせていいのか!」と怒りを露にすることも少なくない。決まってその場合私は「まあまあまあ、しょうがないよ」と見て見ぬふりをする。そうした私の態度を見て「中竹は優しすぎる」とか「彼は温厚な性格なため甘やかしている」という表現をされるが、自分では全くそうは思っていない。

所詮、人はそれほど私のことを深く理解していないし、また、私が尽くした分だけの誠意を相手が感じてくれるとは毛頭思っていない。我々はコミュニケーションの誤解の連続の中で生きており、ときに相手から期待を超えた喜びをもらったり、ときに裏切られたような態度を受けながら過ごしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中