最新記事

一生働く時代

高齢化先進国の日本で進む「シニア就労支援」の決め手は?

2017年10月31日(火)16時51分
高木由美子(本誌記者)

Sorbetto-Digitalvision Vectors/Getty Images


20171107cover-150.jpg<ニューズウィーク日本版10月31日発売号(2017年11月7日号)は「一生働く時代」特集。生活のためだけでなく健康のためにも、引退しない生き方が標準になる? 各国事情を取材し、生涯労働の利点と新たなピラミッド型社会の未来に迫ったこの特集から、東京大学・廣瀬通孝教授のインタビューを転載。ITを活用した「高齢者クラウド」とは何か?>

世界の先陣を切って少子高齢化が進む日本では、若者が高齢者を支えるのはますます困難になっていく。ならば高齢者が社会を支えるモデルを構築しようという逆転の発想で、ITを活用してシニアの就労を支援するプロジェクト「高齢者クラウド」の研究開発が進んでいる。

元気で就労意欲のある高齢者は増えても、実際の就業率との格差は大きい。これは人材マッチングに問題があるのでは、というのが研究の出発点だ。高齢者の労働力を適材適所に配置するシステム構築は、社会・経済的対策とは一線を画す「理系的」な試み。研究を主導する東京大学大学院情報理工学系研究科の廣瀬通孝教授に、本誌・高木由美子が聞いた。

――なぜITで高齢者の就労支援という発想が生まれたのか。

情報技術を用いた高齢者支援というと、ロボット介護士とか薬飲み忘れ通知とか、高齢者は弱者だという前提に基づいている。だが、弱者と決め付けて高齢者を活用しないのはいびつな考えで、システム変更が必要だ。

――高齢者の就労を難しくしている要因は。

1つには「スキル」の問題がある。若者と違い、高齢者は既にスキルがついており可塑(かそ)性(力を加えられて変形し、そのままの形になる性質)がないので、マッチングがより重要になる。2つ目に、フルタイムで毎日働くのは難しいという「時間的」制約。3つ目には、体力的に長距離通勤などがつらくなるという「空間的」問題だ。

――それらを解決するには。

スキルに関しては、因数分解すればいい。例えば、「英語能力がありスカンジナビアへのコピー機の輸出の知識が豊富」というスキルにぴたりとはまる仕事を探すのは難しいが、「外国」「機械」「調達」と能力を因数分解し、他の人々の能力と再組み立てすれば、バーチャルな1人分の労働力になる。これを「モザイク就労」と称している。

――高齢者クラウドで開発しているマッチングシステムとは。

2種類の人材検索エンジンを進めている。1つは、ハイスキル向けの「人材スカウター」で、企業の求める高度な人材をマッチングする。1人で当てはまらない場合は、多人数を組み合わせることも。

そうしたいわゆるビジネス的な働き方と違うのが、2つ目の「GBER(ジーバー)」。ウーバーは呼ぶと車が来るが、ジーバーはおじいちゃんおばあちゃんが飛んで来る。少し緩い感じの就労で、例えばパワーポイントの資料作りを手伝う、地元で子供の世話をする、料理を教えるといったロースキルの仕事だ。

もともとオファーが集中しがちなハイスキル人材と、比較的簡単に仕事が探せるロースキル人材に比べ、マッチングが難しいのが中間層だ。上と下から領域を広げていきたい。

――ハイスキルの人材スカウターの構図のほうが、ビジネスとしては分かりやすいが。

でも、ジーバーのほうが将来性は高いかもしれない。ソーシャルネットワーク的なものから貨幣価値を生み出せれば、社会への影響は大きい。物を作って売るなどの単純なビジネスモデルじゃないものを、今後の日本はつくり出していく必要がある。

――将来的な課題は。

日本は早くこの問題に取り組まなければ。中国や台湾も急速に高齢化していて、日本は将来的に高齢化率で追い抜かれる。安穏としていると、「課題先進国」の立場さえ奪われてしまう。

テクノロジーは、昔なら特殊な人にしかできなかったことを、一般庶民にも可能にしてくれる。第二の人生で大成功という夢も、ITの力を借りて多くの人が実現できるかもしれない。

※「一生働く時代」特集号はこちらからお買い求めいただけます。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中