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今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望している理由

2025年1月30日(木)06時45分
梶谷 懐(神戸大学大学院経済学研究科教授)、高口康太(ジャーナリスト、千葉大学客員教授)

また、途上国・新興国側としても、脱炭素を進める必要性があるとはいえ、中国のグリーン製品を大々的に輸入することにメリットを感じないだろう。

途上国・新興国の論理

タイの事例は典型だ。中国からタイに輸入されるEV購入にタイ政府から補助金が支給されることとなり、中国EVメーカーは大挙して進出した。ただし、この補助金支給には条件があった。最終的にはタイでの現地生産が義務付けられているのだ。

2026年までにタイでの現地生産を始めた場合には輸入台数の2倍以上、2027年に生産を始める場合は3倍以上の国内生産が義務付けられる。補助金を武器に中国EVメーカーの工場誘致を目指したわけだ。野心あふれる中国企業は果敢に挑戦したが、タイ自動車市場の冷え込みもあり達成が困難な企業が多く、義務化の期限は延長された。

また、中国政府もEV工場の海外展開に対してジレンマに陥っている。中国メーカーの販売台数が増加すること自体は望ましいが、それが生み出す雇用、そしてEVの技術は中国外に流出してしまう。外国政府は現地生産を求めてくるが、中国政府はそれを抑制しようとする。企業は板挟みの立場に置かれるだろう。

また、「質の高い発展」が途上国・新興国にとって魅力的なフレーズかどうかは疑問がある。一帯一路1.0では融資が獲得できるという強烈なメリットがあったが、2.0ではお金がついてこない点が弱い。お付き合い程度には参加しても、たいしてやる気にはならないというのが実情だろう。

金の切れ目が縁の切れ目というが、融資という最大の武器を失った一帯一路は、今や魅力を失っているのだ。

参考文献:
佐野淳也・枩村秀樹(2023)「一帯一路フォーラムから読み解く中国の巨大経済圏構想の行方」『日本総研Viewpoint』2023年13号

『ピークアウトする中国――「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界』
ピークアウトする中国――「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界
 梶谷 懐、高口康太 著
 文春新書

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[筆者]
梶谷 懐(かじたに・かい)
1970年、大阪府生まれ、神戸大学大学院経済学研究科教授。神戸大学経済学部卒業後、中国人民大学に留学(財政金融学院)、2001年に神戸大学大学院法学研究科博士課程修了(経済学)、神戸学院大学経済学部準教授などを経て、2014年より現職。著書に『中国籍済講義』(中公新書)など。

高口康太(たかぐち・こうた)
1976年、千集県生まれ、ジャーナリスト。千葉大学客員教授。千重大学人文社会科学研究科博士課程単位取得退学。中国経済、中国企業、在日中国人社会を中心に各種メディアに寄稿。著書に『現代中国経営者列伝』(星海社新書)、 『中国「コロナ封じ」の虚実』(中公新書ラクレ)など。

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