最新記事
キャリア

「均等法第一世代」独身で昇進を続けた女性が役職定年を機に退職した理由

2024年12月18日(水)17時16分
奥田 祥子 (近畿大学 教授) *PRESIDENT Onlineからの転載
「均等法第一世代」独身で昇進を続けた女性が役職定年を機に退職した理由

Amnaj Khetsamtip -shutterstock-

<総合職第一号としての入社から仕事が私のすべてだったのに...結婚も子どもも役職も手に入れた「女性活躍世代」からパワハラで訴えられた>

1980年代後半に入社した、均等法第一世代の大卒女性たちが、定年を迎え始めている。

彼女たちは、どのようなセカンドライフを迎えているのか。近畿大学教授の奥田祥子さんは「女性総合職第一号として入社して順調に昇進、部長を務めたある女性は、望んでいた『女性初の本部長や執行役員』にはなれず、57歳で役職定年を機に退職した」という──。

※本稿は、奥田祥子『等身大の定年後 お金・働き方・生きがい』(光文社新書)の一部を再編集したものです。


「仕事が私のすべてだったのに...」

「こんな、はずじゃ、なかった! これまで、必死に、仕事に打ち込んできた、んです。私生活だって、犠牲にした。仕事が私のすべて、だった。そ、れ、なのに......。私は、最後の最後で......会社に見捨てられたん、です......」

2020年。なぜ、会社を辞めたのか──。という問いに数分間、押し黙った後、メーカーの広報部長職を役職定年になるのと同時に自ら職を辞した横沢佐恵子(よこざわさえこ)さん(仮名、57歳)は、嗚咽し、言葉に詰まりながらも、懸命に思いの丈をぶつけた。

「これまで会社のことを悪く言うのは極力避けてきましたが......私たち女性の総合職第一号は......実際には “広告塔” のように扱われて......能力を発揮するどころか、活躍するための機会さえ十分には与えてもらえなかったんです。そんななかでも、私は耐えに耐えて、頑張って......『男社会』の会社をうまく渡り歩きながら、上司に実力を認めさせて、部長にまで上り詰めたんです。そ、それ、なのに......役定(役職定年)を機に、全く経験のない営業部でデータ管理の仕事を打診されるなんて......。派遣の女性で十分の仕事。もう “お払い箱” と言っているのと同じじゃないですか!」

総合職第一号としての入社からの経緯を話すなかで、いったんは感情の昂りも治まりかけたかに見えたのだが、会社から役職定年後に打診された部署と職務を説明しているうちに憤りが再燃したようで、また言葉につかえ、うなだれた。

それまで長年の継続インタビューで横沢さんは、彼女自身の昇進などキャリアの節目をはじめ、女性社員の家庭と仕事の両立、管理職登用など女性に関する社内制度が整備され、社員の意識も変化するたびに、葛藤や戸惑い、不満などさまざまな心境を語ってくれた。そして、それを己の糧として前を向いて進んでいくのが彼女の強みだった。

にもかかわらず、この日の取材では、本来の彼女なら口にすることがないであろう、「男社会」を「うまく渡り歩いた」といった自分の会社員人生を皮肉るような言葉遣いや、「派遣の女性で十分」といった非正規雇用の女性スタッフを見下すような物言いも気になった。

「均等法第一世代」としていくつもの荒波を乗り越えて能力を開花させた女性の前に、キャリア人生の終盤で立ちはだかったものは何だったのか。これまで20年間に及ぶインタビューを振り返り、その要因に迫りたい。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英CPI、11月は+2.6%で8カ月ぶり高水準 サ

ビジネス

ユーロ下落なら米関税の影響緩和、来年4回の利下げ「

ワールド

ガザ停戦合意へ取り組み続く、イスラエルの空爆で16

ビジネス

アングル:日本車メーカーに再編の波、日産とホンダ協
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:アサド政権崩壊
特集:アサド政権崩壊
2024年12月24日号(12/17発売)

アサドの独裁国家があっけなく瓦解。新体制のシリアを世界は楽観視できるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達した...ここまで来るのに40年以上の歳月を要した
  • 2
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが物議...事後の悲しい姿に、「一種の自傷行為」の声
  • 3
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「TOS-1」をウクライナ軍が破壊する劇的瞬間をカメラが捉えた
  • 4
    ウクライナ「ATACMS」攻撃を受けたロシア国内の航空…
  • 5
    爆発と炎上、止まらぬドローン攻撃...ウクライナの標…
  • 6
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 7
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 8
    ウクライナ侵攻によるロシア兵の死者は11万5000〜16…
  • 9
    ChatGPT開発元の「著作権問題」を内部告発...元研究…
  • 10
    【クイズ】アメリカにとって最大の貿易相手はどこの…
  • 1
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 2
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式多連装ロケットシステム「BM-21グラート」をHIMARSで撃破の瞬間
  • 3
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達した江戸の吉原・京の島原と並ぶ歓楽街はどこにあった?
  • 4
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 5
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 6
    男性ホルモンにいいのはやはり脂の乗った肉?...和田…
  • 7
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 8
    電池交換も充電も不要に? ダイヤモンドが拓く「数千…
  • 9
    ウクライナ「ATACMS」攻撃を受けたロシア国内の航空…
  • 10
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 4
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 5
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 6
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 7
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 8
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 9
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 10
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中