米国民がトランプを選んだ以上、貿易相手国は対米依存を脱却するしかない
TRUMP II AND THE ECONOMY
トランプ支持のキャップをかぶったニューヨーク証券取引所のトレーダー ANDREW KELLYーREUTERS
<関税引き上げを訴えて返り咲きを果たしたトランプ。経済政策がどうなるにせよ、世界は「自立」するしかない>
ドナルド・トランプの勝利と、全ての輸入品に高関税を課すという彼の強硬姿勢は、世界経済にとって大きな問題となる。
アメリカは技術大国だ。研究開発費は世界一。過去5年間のノーベル賞受賞者は、アメリカ以外の国の受賞者の合計を上回る。その革新の才と経済的な成功を、世界は羨むしかない。しかし各国が目指すべきなのは、アメリカへの過度な依存を避けることだ。
こうした状況は、民主党候補のカマラ・ハリスが勝利していても大きく変わることはなかった。
トランプが唱える「アメリカ・ファースト」は、実はこれまで超党派で推進されてきた政策だ。少なくとも民主党の大統領だったバラク・オバマが打ち出した「エネルギー独立」政策以降、アメリカは技術的な優位を維持しつつ、労働力の国外流出を防ぐため、もっぱら内向きの政策を掲げてきた。
トランプが前回の任期中に下した主要な選択の1つは、国内の生産者を守るために大半の貿易相手国に高関税を課し、国内消費者に物価上昇をもたらす政策を導入することだった。例えば2018年には、輸入洗濯機の価格が関税により国内製造分に比べて12%高かった。
トランプよりは穏やかだったが、ジョー・バイデン大統領も中国産製品の関税を引き上げた。電気自動車(EV)には最大100%、ソーラーパネルは50%、リチウムイオンEV電池は25%。国内の製造業は保護するが、脱炭素社会の実現へ向けた動きを遅らせる選択だった。
バイデンは対EU関税を停止する一方で、より大きな混乱を招く補助金競争に火を付けた。アメリカのインフレ抑制法には、EVや再生可能エネルギー分野への3690億ドルもの補助金が含まれ、CHIPSおよび科学法では国内の半導体製造に520億ドルの補助金が投じられている。
不干渉主義を貫くトランプ
アメリカの産業政策は内向きかもしれないが、他国に明らかな影響を及ぼしている。中国はここ数十年、主に輸出に基づく経済成長を果たしてきたものの、今は過剰生産という問題に直面し、国内消費の促進と貿易相手国の多様化を図っている。
財政予算に関する縛りが非常に厳しい欧州諸国も、補助金競争に参戦している。成長が鈍化し、産業モデルが大いに疑問視されているドイツは、アメリカの補助金に対抗して、スウェーデンのリチウム電池メーカーのノースボルトに国内製造を続けてほしいがために9億ユーロ(約1470億円)を援助している。
これだけの予算があるのなら、アフリカ大陸全体で太陽光発電を行うなどの緊急課題も容易に賄えたはずなのだが。その一方で中国は、欧米を追い抜いてアフリカ最大の投資国となり、天然資源の確保に躍起になっている。
ウクライナへの全面侵攻や、それに伴う多数の死者、エネルギー危機といった問題は、バイデンがロシアのウラジーミル・プーチン大統領に侵攻の影響を明確に警告し、紛争前にウクライナに近代的な兵器を供与していれば回避できたかもしれない。
しかし、大きな非があるのは欧州諸国のほうだろう。トランプは前回の任期中、ロシアの天然ガスへの依存が招く戦略的問題についてドイツに警告していた。
進むべき道は明確だ。欧州諸国は中国の過剰生産問題を解決する一助として、中国産のソーラーパネルやEVに対する自国の関税戦争を終結させる交渉を行うこともできる。さらに欧州は、アメリカから記録的な量の液化天然ガス(LNG)を輸入する代わりに、自国のクリーンエネルギー生産量を増やすことで主権をいくらか取り戻すこともできるだろう。中国もウクライナ侵攻の終結に向けて、その巨大な影響力をロシアに行使できるかもしれない。
EUも得意分野にもっと力を入れればいい。貿易協定を締結し、それを世界中で二酸化炭素排出量を削減する手段の1つとして活用することも可能だろう。
これらはEUと中国だけの問題にとどまらない。この数十年、人間の生活の主要な面ではおおむね進歩が見られてきたものの、いま世界は後退しつつある。
飢餓に直面する人々は増え、08〜09年の水準に達している。パレスチナ自治区ガザ、スーダン、ミャンマー、シリア、そして今ではレバノンでも戦禍が続き、民間人の死傷者は2010年以降で最も多い。
善くも悪くも、トランプ政権が不干渉主義の道から外れる可能性は低い。平和や気候変動、貿易自由化に関する主要なイニシアチブを取るとも考えにくい。
この先アメリカがどうなるのかは、全く不透明だ。第2次トランプ政権は、これまでの10年間の延長にすぎないのか。あるいは法外な関税や、アメリカをこれほどまでの経済大国に押し上げた制度の破壊によって、米経済の重要度は低下するのか。いずれにしても、それはアメリカ国民の選択であり、各国はただ見守るしかない。
その間、世界にできる唯一のことは、過度に依存し合わず、良好な協力関係を築く方法を学ぶことだ。
The Conversation
Renaud Foucart, Senior Lecturer in Economics, Lancaster University Management School, Lancaster University
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
2024年11月19日号(11月12日発売)は「またトラ」特集。なぜドナルド・トランプは圧勝で再選したのか。世界と経済と戦争をどう変えるのか。[PLUS]大谷翔平 ドジャース優勝への軌跡
※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら