日米をまたぐ保険のプロが語る、災害や政情不安、米国固有リスク...「予測不能なリスク環境 」にどう対応するか?
PR
写真右:一戸敏
エージェント・インシュアランス・グループ代表。国内では保険コンサルティングセールスと保険代理店支援プラットフォームの2サ ービスを、海外では保険ブローカーサービスを提供。
写真左:三木晋吉
米国基盤の独立系保険販売会社ザ・ボールドウィン・グループ (The Baldwin Group)のマネージング・ディレクター。前職の東京海上日動火災保険株式会社で日本、米国、アジアで通算40年近い保険事業経験を持つ。
<損害保険市場を起点に、日本企業の米国進出をサポートしてきた二人の保険エキスパートが、シームレスになりつつあるリスク環境の観点から、日米双方の未来予想図を語り尽くす>
一戸 米国における2023年の損害保険市場(医療保険を除く)の保険料収入は1.9兆ドル(約285兆円:東京海上HDデータ)と推定されています。この金額は世界全体の損害保険市場において約40%を占める規模です。われわれは米国市場を主戦場にしていますが、ここ最近は日系企業からの関心の高まりをまた感じるようになりましたよね。
三木 コロナ禍によるサプライチェーンの混乱、および地政学的リスクによるアジアでの不安定性の回避傾向が背景にあります。厳しいマーケットではありますが、規模の大きく透明性・コンプライアンス性の高いアメリカ市場への回帰が再び高まっているように思います。
一戸 円安の影響は無視できないですが、世界最大市場の米国に進出し、勝負をかけたい、ドルで稼ぎたいという強い覚悟が見られますね。
三木 業種としては、不動産、食品、再生エネルギー、医療関連が特に目立ちます。また、私の得意分野である自動車産業でも底堅いアメリカ経済を背景に、日系自動車産業、特にEV関連でさらなる投資の動きがあります。
一戸 この流れは、今秋の大統領選で共和党と民主党のどちらが勝つにしても、しばらく続くことになりそうですよね。
三木 はい、いずれにせよアメリカ主義的な政策が続く可能性が高そうで現地生産・調達・活動を通じた米国でのオペレーション実施によるリスク回避が最適解になるでしょうね。そんな状況が当面続くと見ています。
「保険大国」米国から考える、リスク管理の深化と多様化。
一戸 米国には、日本や他の国とも異なる特有のリスクも存在しますよね。
三木 典型的なのはサイバーリスクでしょうか。データ漏洩やランサムウェア攻撃が増加しています。
一戸 日本でもKADOKAWAグループが被害を受けていますね。
三木 米国だと顧客情報が漏洩した場合のペナルティが非常に大きく、企業にとって大きな負担となります。
一戸 消費者保護法の厳しさも、企業への影響が大きいですよね。
三木 製品責任リスク(PLリスク)ですね。製品の欠陥や危害による多額の損害賠償リスクが存在します。企業が環境汚染を引き起こした場合も、多額の罰金や訴訟リスクが伴います。また、日本ではまだ一般的ではありませんが、米国で特に重要視されているのが雇用に関する訴訟リスクです。
一戸 解雇、差別、セクハラ、またはその他の労働法違反に基づく訴訟が頻発していますからね。
三木 そうしたリスクをカバーするための保険として、雇用慣行賠償責任保険があります。
一戸 いま挙げていただいたもの以外にも、広大な地理的条件からハリケーン、地震、山火事といった自然災害リスク、プロスポーツやエンターテインメント業界におけるリスクも特有ですよね。雇用慣行賠償責任保険のように、米国の保険市場ではこれらのリスクに対応すべく、特化した商品が多く存在するのも当然な状況ですね。