世界の不動産市場、金融緩和でも急ピッチの回復見込めず
9月5日、世界の不動産市場は急激な金利上昇で打撃を受けたが、今後、徐々に金融緩和が進んでも、過去の不動産ブームにつながったような大量の資金流入は見込めないとみられている。ニューヨークで8月撮影(2024年 ロイター/Kent J Edwards)
世界の不動産市場は急激な金利上昇で打撃を受けたが、今後、徐々に金融緩和が進んでも、過去の不動産ブームにつながったような大量の資金流入は見込めないとみられている。
欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行(英中央銀行)、スイス、スウェーデンなどの中央銀行はすでに利下げを開始しており、米連邦準備理事会(FRB)も追随するとみられている。
ただ、業界関係者や金融機関によると、債券や普通預金の魅力が増す中、不動産市場からは資金が流出している。
チューリッヒ保険の不動産リサーチ担当グローバルヘッド、アンドリュー・アンジェリ氏は「まだ危機を脱していない」とし、不動産市場が急ピッチで回復する見込みは薄いとの見方を示した。
不動産市場は過去2年間の利上げで大きな打撃を受けた。欧州では不動産大手のシグナが経営破綻。コンサルティング会社ファルケンシュテーグによると、ドイツの不動産関連の企業倒産は今年上半期に1100件を超えた。
英国でも業種別で不動産関連の企業倒産が2年連続で最多だった。今年6月までの1年間の倒産件数は約4300件に達した。
特にオフィス市場は金利上昇と在宅勤務で大打撃を受けた。だが、影響は住宅市場にも波及。ドイツでは不動産価格の下落に伴い大手不動産会社の破綻や投融資の減少が起きており、住宅不足が悪化している。
米不動産会社NAIバーンズ・スカロ(ピッツバーグ)のブライアン・ウォーカー社長は「オフィス市場は底を打ったと言う人もいるだろうが、どうしてそんなことが言えるのか分からない」とし、多くの投資家がオフィスビルを金融機関に明け渡していると指摘した。
ドイツの不動産融資大手、DZ銀行のコルネリウス・リーセ最高経営責任者(CEO)は、利上げの影響が波及するのに3年かかると指摘。「ほぼ3分の2は終わったが、予想外の事態に見舞われ得る局面に入っている」と述べた。
ドイツや中国など多くの国では景気が減速しており、懸念は一段と強まっている。
不動産融資への懸念
不動産投資会社JLLの試算によると、商業用不動産市場では、今年から来年にかけて世界全体で合計2兆1000億ドル相当の債務の返済が必要となる。このうち3分の1近くは今年上半期に借り換え契約が締結されたが、来年は最大5700億ドルの返済資金が不足する恐れがある。
米国の投資家の間ではオフィスビルを金融機関に明け渡す動きが広がっている。運用会社ブルックフィールド・アセット・マネジメントは、音楽事務所やスタジオが入居していることで有名なニューヨークのブリル・ビルディングを手放した。
不動産ブームを受けて市場に参入した中小の銀行も脅威にさらされている。