最新記事
半導体

米半導体大手エヌビディア株のジレンマ...投資集中でリスクも増大

2024年7月16日(火)17時28分
米半導体大手エヌビディア

7月15日、米半導体大手エヌビディアの株式保有を際立って膨らませたポートフォリオマネジャーは、そのおかげでリターンが押し上げられた。写真は2022年5月、米サンタクララの同社本社で撮影。同社提供(2024年 ロイター)

米半導体大手エヌビディアの株式保有を際立って膨らませたポートフォリオマネジャーは、そのおかげでリターンが押し上げられた。一方、エヌビディア株の反落が視界に入る事態になれば、こうしたポジションは一転して大きなリスクをはらむことになる。

エヌビディアの株価は昨年初めから約785%、今年だけでも約160%も跳ね上がった。同社の半導体が人工知能(AI)分野で盤石の標準製品になるとみなされ、需要が拡大し続けているからで、6月には時価総額がマイクロソフトを抜いて世界一に躍り出る場面もあった。


 

株価高騰に伴い、資産運用担当者の保有規模も非常に大きくなっている。モーニングスターのデータからは、今年第1・四半期末時点で、預かり資産の5%かそれ以上をエヌビディア株に振り向けたアクティブ運用型ファンドは355本と、前年同期の108本をはるかに上回ったことが分かる。

モーニングスターのシニアアナリスト、ジャック・シャノン氏は「一部のポートフォリオマネジャーは、アップルやマイクロソフト(の株価高騰)に乗り遅れたので、AIでは失敗したくないという心境にある。(だから)彼らは(エヌビディア株を)売りたがらない」と指摘した。

エヌビディア株の保有規模拡大は、ごく一握りの大型成長株に資金が集中し、かつてないほどに限られた銘柄が相場上昇をけん引する構図も浮かび上がらせている。S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスによると、今年のS&P総合500種の上昇率(17%弱)の3分の1前後をエヌビディアがもたらした。

BofAグローバル・リサーチのストラテジストの分析に基づくと、今年前半にS&P総合500種をアウトパフォームした構成銘柄の割合はわずか24%と、1986年以降で最低にとどまった。

今のところエヌビディア株を組み込んだファンドがその恩恵を享受しているのは確かだ。モーニングスターのデータは、エヌビディア株を保有するアクティブ運用型の米国株ファンドは今年前半の平均リターンが16.3%で、エヌビディア株に投資していないファンドの平均リターンは5.7%だったことを示している。

とはいえエヌビディア株の動きが変調を来すようなら、単一銘柄への集中的な投資で打撃を受けかねない。LSEGのデータを見ると、アナリストが設定した同社株価の目標は平均133.45ドルと、現在の水準より3%ほど高い。それでも複数の市場参加者が挙げるのは、競争激化やエヌビディアの増産による供給不足の緩和、割高化といった株価下落につながる要素だ。

エヌビディアの予想利益に基づく株価収益率(PER)は39.3倍で、業界中央値を50%前後も上回っている。

フェデレーテッド・ハーミーズのチーフ株式市場ストラテジスト、フィル・オーランド氏は「運用資産の6%かそれ以上を1つの銘柄に投じることで並外れたリスクが生まれるか。答えは間違いなくイエスだ。1つの銘柄がロケットのように突出したからと言って、1つの籠に多くのたまごを入れるのが賢いということにはならない」と述べた。

投資家は先週、特定銘柄にポジションを集中させると上下双方向のリスクがあることを痛感した。米消費者物価指数(CPI)の下振れをきっかけに大型ハイテク株から資金が逃げ出し、11日のエヌビディア株は1日としては過去2週間余りで最大となる6%弱の下げを記録したほか、ナスダック100も2.2%下落。しかし翌日にはいずれも値下がり分を取り戻す展開になった。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏の車関税は誤り、敗者しか生まない=独首相

ワールド

豪総選挙、5月3日実施 生活費高騰など争点

ワールド

原油先物は1カ月ぶり高値付近、供給不安で3週連続上

ワールド

台湾軍艦と中国漁船の衝突、台湾国防相が中国の批判一
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影された「謎の影」にSNS騒然...気になる正体は?
  • 2
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 3
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 4
    地中海は昔、海ではなかった...広大な塩原を「海」に…
  • 5
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    「マンモスの毛」を持つマウスを見よ!絶滅種復活は…
  • 8
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 9
    「完全に破壊した」ウクライナ軍参謀本部、戦闘機で…
  • 10
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 3
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 4
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 5
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 8
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 9
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 10
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中