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TSMCが人材を独占し、日本企業は生き残れなくなる? 高給だけじゃない「熊本工場」の衝撃度

SHOCK WAVE FROM KUMAMOTO

2024年3月14日(木)17時14分
林 宏文(リン・ホンウェン、経済ジャーナリスト)

だがTSMCの側からすると、JASMへの投資とアメリカへの投資は少し様相が異なっている。TSMCのシーシー・ウェイ(魏哲家)CEOは以前に、TSMCが各国で工場に投資するのは主に顧客のためであり、日本工場の建設もそれと同じだと話している。

シーシー・ウェイは、日本は生産コストが低い場所ではないと言う。その日本に工場を設置する理由は「ある顧客をどうしても支えなければならない」からで、この日本の顧客とは、TSMCの主要顧客のサプライヤーでもある。主要顧客の製品が売れなければ、TSMCの3ナノメートルや5ナノメートルも売り先がなくなる。

日本はよりチャンスが多い

シーシー・ウェイの言う「ある顧客」とはソニーだ。ソニーは世界最大のCISサプライヤーで、アップルにCISを提供している。

そのアップルはTSMCの営業収入の26%を占める最大顧客で、アップルのスマートフォンやタブレットには相当数のCISが使用されているため、もしCISが手に入らなくなったらアップルはこうした製品を販売できなくなる。つまり、ソニーを支えるために日本に工場を構えるということは、アップルを支えるのと同じことなのだ。

とはいうものの、TSMCの日本での工場配置は、アメリカでの工場建設と2つの点で異なっている。

1つは、日本の生産コストはアメリカほど高くはなく、日本人従業員の企業文化や仕事に対する姿勢も台湾人と似ていること、もう1つはTSMCが日本で行う投資はウエハー製造に加え、日本のIDM企業向け設計サービスや、3次元ICのパッケージングなどが含まれて、より包括的になっている点だ。

日本の生産コストがアメリカより低いことは、1人当たりGDPを見ても分かる。21年の日本の1人当たりGDPは3万9800ドルだが、アメリカは7万ドル以上に達しており、台湾は約3万3000ドルだった。

とはいえ台湾の1人当たりGDPはここ数年で急成長しているため、24年頃には日本に追い付くだろうと多くの専門家が予測している。日本の生産コストがアメリカよりも低いと話した理由はここにある。

日本の1人当たりGDPが増えないため、日本人の給与も少しずつしか上がらない。そしてその傾向はハイテク産業でより顕著だ。TSMCの現在の給与水準は日本のほとんどの大企業を上回っている。

JASMが提示した初任給は大卒が28万円、修士が32万円、博士が36万円だが、熊本県が2021年4月に地元企業を対象として行った調査によると、大卒エンジニアの平均初任給はわずか19万円で、JASMの給与が地元水準を大きく上回っていることが分かった。

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