「発酵温浴」の品質を追求した末に生まれた、人も山林も「美しく」する循環型ビジネス
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さらに片山氏の取り組みは、林地残材や施業放置林を活用するだけでは終わらない。店で使い終えた後の発酵ヒノキおがくずは、土壌改良材や家畜の敷料、コンポスト基材、堆肥資材などに100%リサイクルされ、循環型ビジネスを実践している。
また、より多くの人たちに山林の課題を知ってほしいという思いから、発酵ヒノキパウダーとして一般販売も始めた。こちらは有機JAS資材評価協議会から、有機JAS別表1適合資材の認定を受けた堆肥として家庭で利用されている。片山氏の試算によれば、軽トラック1台分の林地残材(枝葉)はバイオマス資材としては約900円だが、発酵温浴の資材としては約36万円。それだけ新たな価値を創出しているということだ。
林業と農業を循環させるだけでなく、地域の活性化にも貢献
さらに製材所を拠点に、活動内容は地域全体へ広がる。「吉野の人たちと関係性が深まっていく中で、私たちがこんなおがくずが欲しいと一方的に訴えるだけではダメなことに気づいた。町の税収アップに貢献するなど、地域を盛り上げることを一緒にやっていかないと良い素材だって手に入らなくなってしまう。そのために株式会社ニフという別の法人を設立し、地域のものを使った新しいプロダクトを開発してきた。その一部はふるさと納税の返礼品にも採用されている」
例えば、老舗の酒蔵である美吉野醸造とは甘酒づくりで協業。発酵温浴nifuのオリジナル商品としてつくってもらったところ、以前は年に2000~3000本だった販売数が、毎年1万本以上も売れるようになった。他にもヒノキの精油を含んだ入浴剤やバスソルト、無農薬生姜のシロップ、酒粕パウダーなど、美容と健康をサポートするさまざまなオリジナル商品を店舗やオンラインで販売している。
「発酵温浴nifuに来店するお客様の多くは、自然環境問題に特別に関心があるというわけではない。私たちの吉野での取り組みについては、店内に貼っているポスターで紹介したり、スタッフがコミュニケーションの中で話したり、地道に伝えていくしかない。でも、一緒に山をきれいしましょうと呼びかけるのではなく、美容や健康を目的に来店したお客様の消費行動が、結果として山をきれいにするという仕組みを構築できたことに意義があると思っている」
新宿三丁目のビルの中にある発酵温浴nifuの直営店は、和を基調とした高級旅館を彷彿させるたたずまい。風情のある格子戸を開けて中に入ると、ヒノキの香りが漂い、非日常的なリラクゼーション空間へ誘う。
この店を舞台に片山氏が実現させたものこそ、店を訪れる女性も吉野の山林も美しくする「新しい循環型ビジネス」。11年前にこの事業を始めたとき、価格は同業他社の約3倍に設定したという。その挑戦が業界全体のサービスレベルの底上げにつながり、採算の取れるビジネスとして認知されるようになった。業界の活性化を促した功績も注目に値するだろう。
片山裕介(かたやま ゆうすけ)
株式会社テーブルカンパニー代表取締役。1976年岡山県生まれ。地元で理容師として働いた後、2000年に渡豪しシドニーで美容師として活躍。現地でナチュロパシー(自然療法)に出会い、帰国後しばらく経った2013年に酵素風呂の店舗「発酵温浴nifu」を東京・新宿にオープン。2022年に奈良県吉野町の製材所を買い取り、ヒノキの林地残材などからつくったおがくずを酵素風呂に使う循環型ビジネスを実践。現在、直営1店舗、首都圏を中心にフランチャイズ8店舗を展開している。