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途上国ビジネスとODAが果たす役割とは? 「民間版の世界銀行」を目指す五常・アンド・カンパニーの挑戦

2024年3月11日(月)11時30分
※JICAトピックスより転載

 私自身、ビジネスを展開する先では、現地の潜在的な顧客となる家庭に泊めてもらい、生活を共にするようにしています。1日の所得やその中で食費が占める割合、日々の暮らしでお金をどのように節約しているかなどを実際に目で見て、その土地のお金の感覚をつかみます。そうすることで、貸付するお金がどのような価値をもたらすかがリアルにわかり、必要な金融サービスの提供につながるのです。「低価格で良質な金融サービスを 50ヵ国 1 億人に提供する」ことが私たちの目標です。

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ビジネスを展開する際、潜在的な顧客となる家庭で過ごし、「その土地のお金の感覚をつかみます」と言う慎氏(左から2番目、2021年タジキスタンで)

小豆澤 リアルな声が一番パワフルです。現場だからこそわかる課題を相手国政府や開発機関にフィードバックし、その国の政策につなげていくように働きかけることはJICAの役割の一つです。五常はこれからもアフリカを含めた世界中で事業を拡大していくかと思いますが、このようなディスカッションをこれからも続けていきたいです。

「教育」「職業訓練」──途上国ビジネスの機会と可能性、ODAが果たす役割


 私たちの顧客の96%が女性なのですが、マイクロファイナンスを活用して稼いだお金の使い道を聞くと、1位が食費、2位が子どもの学費です。つまり、子どもの教育にお金を使う意欲が高いことがわかります。途上国での公教育の質に課題がある場合もあり、弊社として取り組むかはさておき、教育分野に大きな事業機会があると考えています。デジタル化など技術革新も進むなか、今ある教育の形も変わっていくことは必至です。

また、気候変動の影響によって、農業を続けることが難しくなるなど職業を変えなくてならない人も出てくることが予想されるので、それに応じた職業訓練の需要が高まるとみています。

小豆澤 途上国ビジネスのチャンスはますます広がっています。特に東南アジアでは経済成長が続くなか、世界の途上国に対する見方がビジネス視点に変わってきていることを感じています。スタートアップを含む企業の皆さんによる途上国ビジネスへの挑戦を、JICAとしては現地情報の提供や、一企業では背負いきれないコストやリスクを低減するようなサポートができればと思います。JICAのワンプッシュでビジネス展開が可能になるならばどんどん取り組みたいと考えています。

 途上国でビジネスを展開していると、「JICAが株主でよかった」と実感します。特に国際情勢が不安定な昨今、これまでの日本の外交や開発協力が途上国で受け入れられ、良好な関係を築いてきたからこそ、私たちがスムーズに事業を進めることができるのです。ODA70年の成果は大きく、長く培ってきた信頼はそう簡単には崩れないことを肌で感じます。

小豆澤 JICAだけでなく、一緒に事業に関わった組織・民間企業、JICA海外協力隊など、ODAに携わってきたすべての人々が築き上げてきた信頼です。これからの日本のODAを飛躍させるには、日本はもちろんそれ以外の民間企業も含むさまざまなパートナーの知見をさらに結集して解決策を提示していくことが必要だと考えています。より良い世界の実現に向けて、今後も一緒に進んでいければと思います。

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五常はインドで新たに金融包摂に特化したベンチャーキャピタルを立ち上げたという。リスクを伴うこのような事業にも公的資金の支援があれば、さらなる金融アクセスの向上が図れるのではと語る

慎泰俊(シン・テジュン)
五常・アンド・カンパニー株式会社 創業者・代表執行役
モルガン・スタンレー・キャピタル、ユニゾン・キャピタルで8年間にわたり、プライベート・エクイティ投資実務に携わりながら、2007年にNPO法人Living in Peaceを設立(2017年に理事長退任)し、日本初のマイクロファイナンス投資ファンドを企画した。2014年に五常・アンド・カンパニーを共同創業。グループ経営、資金調達、投資など全般に従事。世界経済フォーラムのYoung Global Leader 2018にも選出されている。

小豆澤英豪(あずきざわ・えいごう)
JICA民間連携事業部長
1992年、海外経済協力基金(旧OECF)入社。JICA東南アジア・大洋州部審議役、フィリピン事務所長を経て現職。

※当記事は「JICAトピックス」からの転載記事です。
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(関連リンク)
五常・アンド・カンパニーに対する出資|ニュースリリース-JICA
カンボジアで家計簿による金融教育の効果をモニタリング-JICA緒方研究所
五常・アンド・カンパニー ウェブサイト

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