途上国ビジネスとODAが果たす役割とは? 「民間版の世界銀行」を目指す五常・アンド・カンパニーの挑戦
小豆澤 五常の事業展開のスピードがとても速いことが印象的です。しっかりと事業を成長させながらも、顧客に寄り添う姿勢は私たちが出資した当初から変わっておらず、顧客や投資家の信頼獲得につながっていると感じます。五常は事業成長を通じて途上国にいる多くの人々に金融包摂を届けてきました。
慎 グループ会社全体の顧客数は現在200万人に達しました。私たちが事業を展開するうえで大事にしているのは、「顧客はどのような人々で、どのような金融サービスを求めてるのか」を深く知ることです。例えばJICAと協力して行ったカンボジアでのフィナンシャル・ダイアリー調査もその一つです。低所得者層の家庭を対象に家計簿をつけてもらい、家計の収支状況を詳細に把握し、マイクロファイナンス事業のインパクトを測定しています。
現場から顧客のニーズを丁寧に拾い、提供するサービスにつなげる。そのサイクルが成長の鍵
小豆澤 フィナンシャル・ダイアリー調査を通じて家計簿をつけることはその家庭の金融リテラシーの向上というさらなるインパクトも生みだしています。2023年度の五常のインパクトレポート※でも紹介されているこの調査を通じて、顧客にどのようなニーズがあって、どんなサービスを提供すれば金融包摂が実現されるのかを細かく把握し、それをもとにさらに良いサービスの提供を短いサイクルで繰り返すことで、五常が事業を成長させてきていることがわかります。
その一方で、インパクトレポートには、マイクロファイナンスを活用することで、低所得者層の所得が向上しないこともある、という事実も記載されていました。金融包摂に向けた取り組みが一筋縄ではいかない現実を突きつけています。
慎 マイクロクレジットについて、顧客が事業投資以外の用途に使用する場合、あまりインパクトを生み出していないという事実は、実はこれまで事業者側からはあまり公表されてきませんでした。だからこそ、このレポートは、実情を示しているという点で海外のマイクロファイナンス投資ファンドからも高く評価されています。不都合な真実に目を背けることなく向き合い、それでも自分たちの理想を信じることが大切だと考えています。
小豆澤 難しい課題や困難がある中でも歩みを止めない──その思いは一緒です。その克服には、やはり現場のニーズを丁寧に拾い上げることが不可欠です。