サブカルの発信地「ヴィレヴァン」、気付いたらマズいことに ドンキに差を付けられた根本理由とは?
しかし、時代が流れ、SNSを通じて人々の好みが多様化した現在、もはや「メイン」や「A級」という考え方自体が、ほぼ消滅してしまった。
それと同時に「サブカル」なるものも、90年代ぐらいまで、カルチャーのメインを作っていたのは、マスメディアだったが、ネットの発達以降、マスメディアの影響力も相対的に低下し、そもそも「サブカル」なる言葉の輪郭が曖昧になってしまった。
サブカルが曖昧になるにつれて、店舗に並ぶ商品や空間構成も曖昧になる。たとえば、最近のヴィレヴァンでは、YouTuberや Vtuberとのコラボレーション商品も多く並ぶ一方で、これまで通りのマイナーな文学作品や同人漫画などの取り扱いもあり、かと思えば売れ筋漫画も置いてあるといった風景で、ターゲティングがあやふやだ。
「サブカル」という言葉の輪郭が曖昧になるにつれて、その空間の演出も曖昧になってしまう。このような事態が起こっている。
ヴィレヴァンのもつ熱量が不利に働く?
一方、ヴィレヴァンがもつ「世界観」が、現在の消費のトレンドとマッチしていない、という、そもそも論的な問題もある。
やや率直な表現になってしまい恐縮だが、ヴィレヴァンの店舗には「こういうカルチャーを知っておくべきだ!」というような、「押し付けがましさ」が感じられてしまう。なんだろう、この感じ......と思いながら、創業者の回想を読んでいると、腑に落ちる記述があった。彼が初期の社員たちに語った言葉である。
「本というのは特別な消費財なんだ。まず、本を売ることに矜持を持とう。コンビニで本を買うようなセンスの悪い奴は相手にするな」(菊地敬一『ヴィレッジ・ヴァンガードで休日を』、p.50)
言い方がやや厳しいかもしれないが、ヴィレヴァンにはどことなく「選民意識」みたいなものが流れているのだ。それは「センスの悪い奴を相手にするな」という言葉によく現れている。
で、こういうある種の「押し付けがましさ」は店から出される「圧」といえるとも思うが、それはヴィレヴァンの店舗空間にもよく現れている。そこには「余白」がないのだ。
店内空間にはぎっしりと物が詰まっていて、その「ブツのパワー」みたいなものに人は圧倒される。ヴィレヴァン側がもつ、「こういうカルチャーこそいいんだ!」観が迫ってくる。
こういう手法は、たぶん引っかかる人には引っかかっていたと思う。でも、残念なことに時代の消費のトレンドを見ていくと、こうした「押し付けがましさ」は不利に働いてしまう。
Z世代の企画屋として知られる今瀧健登が書いた『エモ消費 世代を超えたヒットの新ルール』の中に興味深い話がある。近年、商品やサービスを売るときに、それらがいかに優れているのかをアピールしても、あまり意味がないという。消費者の嗜好は多様化していて、その商品について、企業側の一方的な押し付けがましいアピールは消費者にとって望ましく思われないことがあるというのだ。
今瀧は、消費者一人一人にとって、その商品に対する解釈(この商品をどうやって使ったら楽しいか、この商品をどのように使いたいか)ができるような余白のある製品宣伝が望ましいという。
広告だけではなく、空間作りにおいても同様だろう。そのように、多様な解釈を消費者に感じさせられる空間は、余白のある空間だと思う。ヴィレヴァンは店側の意図があふれすぎていて、少し暑苦しくなってしまっている。その熱量が、裏目に出ているのだ。
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