24時間戦っていた電通マンが明かす「接待の実態」「浪費生活の末の窮地」
昔も今も広告宣伝担当の役員や宣伝部の部長クラスには、少なくとも月に1回のゴルフ接待(たいていはハイヤーでの送り迎えとお土産つき)が行われているそうだ。
それはともかく結婚して2年後に長男を授かった著者は30歳をすぎた頃、35年のローンを組んで都心近くに新築マンションを購入する。ローンの支払いには余裕があり、電通の給料であれば、ローンも計画を前倒しして返済できる状況だったようだ。やはり電通に勤めれば、お金の心配をする必要はなさそうである。
だが、私は電通マンとしての遊興に慣れすぎてしまっていた。
会社の交際費を使った飲み食いだけにとどまらず、同僚や知人・友人との飲食のため、クレジットカードを何枚も作り、時に消費者金融から借りてまで、カネを注ぎ込んだ。
3年ずつの間隔を空けて次男と三男が生まれ、家族は5人になった。それでも毎夜の浪費は止まらなかった。40代になったころ、カードローンは自転車操業状態になった。ボーナス時に借金の全額をいったん返済し、その翌日にそれ以上のカネを再び借りたことも一度や二度ではない。(129〜130ページより)
読み終えた後、叔父のことを思い出すことになった
『闇金ウシジマくん』に登場する「カウカウファイナンス」を思い出さずにいられないが、これは著者に限ったエピソードではないようにも思える。つまり、電通の環境がもたらした弊害だったのではないかと感じずにはいられないのだ。
そして、そういった無責任な推測を裏づけるかのように、著者は最終的に窮地に立たされる。詳しい記述は控えておくが、結末は予想を超えたものであると同時に、「電通マンなら十分にあり得る話かもしれないな」と思えるものでもあった。
それはあまりに悲しくもあるのだが、だからこそ私は本書を読み終えた後、冒頭で触れた叔父のことをまた思い出すことにもなったのだった。
著者と同じ体験をしたという意味ではないが、叔父の結末もまた悲しいものだったからだ。周囲から軽く扱われていたことを気に病んでいたに違いない彼は、最終的に病に倒れ、自らの死を誰にも告げないようにと家族に言い残してから世を去ったのである(ちなみにそれは叔父の話であり、もちろん著者は健在)。そのため私も、ずいぶんあとになってからそのことを知った。
果たして彼もまた、華やかに見える電通マンだったからこそ多くの誤解を抱えたまま逝ったのだろうか? それは考えすぎだろうか?
真実は分からないが、できればもっと、仕事についていろいろな話を聞いておきたかったなと、今でも感じることがある。
『電通マンぼろぼろ日記』
福永耕太郎 著
三五館シンシャ
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[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)をはじめ、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。新刊は、『書評の仕事』(ワニブックス)。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。
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