最新記事
エネルギー

脱炭素だけでなく「エネルギー安全保障」の観点からも世界が注目...「3種の電池」の新ソリューション

2023年12月7日(木)12時00分
安藤智彦

H2 KIBOU FIELD

発電量が常時可視化されている

設備の稼働当初はなかなか自家発電率が上がらず、7割程度で足踏みしていたと、加藤氏は振り返る。「前例のない取り組みだけに、実際に稼働させてみないと分からないことも多かった。ちょっとした雲の動きで想定通りに発電できなかったり、工場側の電力需要の変化に追いつけなかったりと、想定通りにはいかない状況も出てきた」。

そうした課題に直面しながらも、実証データを積み重ねることで自家発電率は98%を超えているという。「天候の予測情報を精度高く得られるようにしたことや、工場側の電力需要予測情報をもらい需要の予測精度を高められたことで、今はほぼ100%に達している」と、加藤氏は言う。

パナソニックの加藤正雄氏

パナソニックの加藤正雄氏

さらには「3つの電池を組み合わせてここまで実際の環境で使用しているケースは世界でもあまりない。ノウハウを蓄積し先行者メリットを生かしていきたい」と意気込む。一般企業に加え行政や研究機関など国内外からの関心も高く、実証開始からの1年半で、700件以上の視察があり、うち58件が海外企業だったという。

来年は英国でRE100ソリューションの実証施設を展開

草津拠点でのトライアルに手応えを得たパナソニックでは、来年秋に新たなRE100ソリューションの実証施設を英国で展開する。電子レンジなどの製造を行うパナソニック マニュファクチャリング イギリス(PMUK)でRE100ソリューションを導入、事業活動で消費するエネルギーを100%再エネで賄う予定だ。

PMUKがある英カーディフの気象状況や電力事情に応じた電力需給運用を検証するのに加え、水素発電時に発生する熱を暖房や給湯にも活用することで、さらなる効率化を図るという。

英国でのRE100ソリューション実証イメージ

英カーディフのPMUKでの実証イメージ図

「脱炭素化、そして地政学的なエネルギー安全保障等の観点から英国をはじめ欧州では水素エネルギーへの関心は高い。一方で水素を組み合わせた電源システムへの認知はまだそれほど広がっていない部分がある。今後はドイツでも実証施設稼働を検討し、欧州での水素関連ビジネスの拡大を目指していきたい」(加藤氏)

パナソニックでは、水素関連の事業機会として、2030年段階での水素関連の事業機会を約6兆円規模(燃料自動車関連を除く)と算定している。まずはRE100ソリューションに代表される分散型エネルギーパッケージの領域で、1000億円規模の市場創出を狙っていく構えだ。

ニューズウィーク日本版 独占取材カンボジア国際詐欺
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月29日号(4月22日発売)は「独占取材 カンボジア国際詐欺」特集。タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中