EU、敵に塩を送っている? 実は輸入量が増加、ロシア産LNGの禁輸は可能か
傷を負うのは誰か
ロシア産LNG輸入の停止は両刃の剣だとアナリストらは言う。
キャプラビューのアナリスト、タミル・ドゥルズ氏は、輸入停止によって欧州での天然ガス価格は上昇するが、必ずしもロシアの輸出収益が減るとは限らない、と言う。LNGであれば、対ロシア制裁を科していないアジア市場などに輸出先を変更することは簡単だからだ。
「実質的にロシアに滞留しているパイプライン経由のガス輸出と異なり、ロシア産天然ガスについて、ロシアの輸出収益やグローバル天然ガス市場の依存度を低下させることははるかに難しいだろう」とドゥルズ氏は語る。
また、タンカー間の積み替えを考えれば、他国から運ばれてくるLNGについてロシア産が含まれていないと判定することは難しく、禁輸措置の執行にも課題が残る。
EU外交担当者の中には、たとえば欧州ではLNGがロシア産でないことを証明する文書の提示が義務付けられ、他地域の市場ではそうした証明が求められないとすれば、サプライヤーが欧州向けのLNG出荷に二の足を踏むのではないかという懸念が見られる。
このところLNG市場での需給は逼迫(ひっぱく)しているため、一部のアナリストは、欧州がロシア産LNGの代替を探そうとしても容易ではなく、そのギャップを埋められなければガス不足の恐れが生じると話している。
コロンビア大学グローバルエネルギー政策センターの研究者アンヌゾフィー・コルボー氏は、「制裁の基本は、制裁の対象とする国より深い傷を自国が負わないようにすることだ」と語る。
(翻訳:エァクレーレン)