最新記事
金融

経営危機のクレディ・スイス「AT1債」無価値の波紋

2023年3月27日(月)11時17分
ロイター

弁済順位

欧州の規制当局は20日、損失は債券保有者より株主へ先に負担させるという原則は変わらないと表明。イングランド銀行は、破綻した銀行の株主と債権者が損失を負うということが英国の法律に明記され、AT1債の弁済順位は他の株式関連商品より先だが、「Tier2債」よりも劣後するとの見解を示した。

香港とシンガポールの中央銀行は22日、管轄地域の銀行が破綻した場合は、従来の弁済順位を絶対に守ると述べた。

銀行の経営危機に際してAT1債の扱いでもめたのは今回が初めてではない。2020年3月にはインドのイエス銀行に対して準備銀行(中央銀行)主導で再建に乗り出した後、約10億ドルのAT1債が償却された問題では、今も裁判所で係争が続いている。

投資家への影響

債券投資家は、クレディ・スイスのAT1債が無価値になったことに衝撃を受けている。

同行のAT1債は完全に償却される可能性があった点から、スイス当局の決定は合法だとの意見もある。

ただ投資家はパニックに陥り、他の銀行のAT1債も同じ運命をたどるのではないかと不安になったため、これらのAT1債の価格が下落した。

クレディ・スイスのAT1債保有者は、法律事務所などに助言を求めているところだ。

市場全体への影響

スイス当局の決定は、世界のAT1債市場にマイナスとみなされている。

スタンダード・チャータード銀行のビル・ウィンタース最高経営責任者(CEO)は、国際的な銀行規制にも「重大な」影響を及ぼしたと発言した。

この先投資家はAT1債の購入にずっと慎重になり、資本基準達成のために債券市場で資金を調達する必要がある銀行にとって状況が以前より厳しくなる、とアナリストはみている。

実際、トレードウェブのデータからは、ドイツ銀行やHSBC、UBS、BNPパリバのAT1債が足元で買い気配値が切り下がり、利回りが急激に跳ね上がったことが分かる。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2023トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中