経営危機のクレディ・スイス「AT1債」無価値の波紋
弁済順位
欧州の規制当局は20日、損失は債券保有者より株主へ先に負担させるという原則は変わらないと表明。イングランド銀行は、破綻した銀行の株主と債権者が損失を負うということが英国の法律に明記され、AT1債の弁済順位は他の株式関連商品より先だが、「Tier2債」よりも劣後するとの見解を示した。
香港とシンガポールの中央銀行は22日、管轄地域の銀行が破綻した場合は、従来の弁済順位を絶対に守ると述べた。
銀行の経営危機に際してAT1債の扱いでもめたのは今回が初めてではない。2020年3月にはインドのイエス銀行に対して準備銀行(中央銀行)主導で再建に乗り出した後、約10億ドルのAT1債が償却された問題では、今も裁判所で係争が続いている。
投資家への影響
債券投資家は、クレディ・スイスのAT1債が無価値になったことに衝撃を受けている。
同行のAT1債は完全に償却される可能性があった点から、スイス当局の決定は合法だとの意見もある。
ただ投資家はパニックに陥り、他の銀行のAT1債も同じ運命をたどるのではないかと不安になったため、これらのAT1債の価格が下落した。
クレディ・スイスのAT1債保有者は、法律事務所などに助言を求めているところだ。
市場全体への影響
スイス当局の決定は、世界のAT1債市場にマイナスとみなされている。
スタンダード・チャータード銀行のビル・ウィンタース最高経営責任者(CEO)は、国際的な銀行規制にも「重大な」影響を及ぼしたと発言した。
この先投資家はAT1債の購入にずっと慎重になり、資本基準達成のために債券市場で資金を調達する必要がある銀行にとって状況が以前より厳しくなる、とアナリストはみている。
実際、トレードウェブのデータからは、ドイツ銀行やHSBC、UBS、BNPパリバのAT1債が足元で買い気配値が切り下がり、利回りが急激に跳ね上がったことが分かる。