経営危機のクレディ・スイス「AT1債」無価値の波紋
経営危機に陥ったスイス金融大手クレディ・スイスを同業UBSが救済合併するのに当たり、スイス当局がクレディ・スイスが発行した劣後債の一種「AT1債(その他Tier1債)」の価値をゼロにすることを決定すると、市場には戸惑いが広がった。写真はクレディ・スイスとUBSのロゴ。チューリヒで20日撮影(2023年 ロイター/Denis Balibouse)
経営危機に陥ったスイス金融大手クレディ・スイスを同業UBSが救済合併するのに当たり、スイス当局がクレディ・スイスが発行した劣後債の一種「AT1債(その他Tier1債)」の価値をゼロにすることを決定すると、市場には戸惑いが広がった。
クレディ・スイスのAT1債保有者には一切返金されないのに対して、通常なら銀行や企業の危機において弁済順位がより低くなるはずの株主は、総額32億3000万ドル相当のUBS株が割り当てられるからだ。
これによって他の欧州銀行が発行したAT1債が軒並み売りを浴びる事態になった。
AT1債とは
市場規模が2750億ドルに上るAT1債は、「偶発転換社債(CoCo債)」とも呼ばれ、発行した銀行の自己資本比率が一定水準を下回ると、株式に強制的に転換されるか、償却されて価値がなくなる。
これは規制当局が銀行に対して、市場混乱時に備えて確保するよう求めている追加的な資本バッファーの一部だ。
本来債券として最もリスクの高い部類だけに、利回りは高めに設定されている。
AT1債が株式に転換される場合は、当該銀行の財務基盤が強化され存続能力にとってプラスに働く。また銀行は危機時にいわゆる「ベイルイン」として、AT1債の償却を通じて投資家に損失を負担してもらうという方法もある。
クレディ・スイスのAT1債に起きた事態
銀行の資本構造に基づくと、一般的に株式よりAT1債の方が弁済順位は先になる。
ただスイスでは、金融当局は経営再建時におけるAT1債の位置付けに関して、この伝統的な資本構造に従う義務はなく、それがクレディ・スイスのAT1債保有者に今回のような結果をもたらした。
つまり彼らはクレディ・スイス債権者の中で、何も補償が得られない唯一のグループになる。一方、通常なら弁済順位がより後になる株主は、クレディ・スイス1株につき0.76スイスフラン相当のUBS株を受け取れる。