寿司テロ騒動後、スシロー社長が見せた「巧さ」 非常時こそ消費者とのコミュニケーションが重要
結果として、ドンキ公式ツイッターは「皆様のご意見を真摯に受け止め、社内で協議させていただいた結果、公式キャラクターとして今後も『ドンペン』が続投することに決定しました」と発表(対応2)し、吉田氏のもとには「さすが社長!」「ありがとうございます」といった、ドンペンファンからの賛意が寄せられた(対応4)。
実はこの数日前から、キャラクター交代を「匂わせていた」のではないかとの指摘があり、ドンペン引退をあおることで注目を集める、いわゆる「炎上商法」を疑う声が相次いでいた。そこをペンギンならぬ、鶴の一声によって、空気を変えたのが吉田氏のツイートだった。
和菓子メーカー「船橋屋」の対応も見事だった
以前、東洋経済オンラインでの筆者コラム「船橋屋、罵声動画拡散よりもきつい『最大の痛恨』」で紹介した、和菓子メーカー「元祖くず餅 船橋屋」での炎上事例も、各原則をおさえている。
2022年8月、創業家の社長(当時)が交通事故を起こした。その翌月、相手に罵声を浴びせたり、相手の車のドアを蹴ったりする様子をとらえた動画が、ツイッター上で拡散される----。
しかし、そこからのウェブ対応は、瞬時かつ的確だった。第一報で事故・現場対応の事実を認め(対応1)、続いて責任は社長にあるとして、従業員や類似名称の企業への誹謗中傷や問い合わせを控えるよう呼びかける。
社長辞任の申し出を伝え、翌日の取締役会で受理したと報告。そして、新社長選任を発表(対応2)。加えて平時から、ゆるい口調のツイッターなどで、消費者とのコミュニケーションを築いていた(対応4)こともあり、大きな傷跡は残らなかった。
船橋屋のケースでは、これまでウェブ戦略を進めてきた神山恭子氏が新社長に就任したことも、好印象に受け止められた。責任が社長にあると明言したリリースは、当時執行役員だった神山氏の名義で出されている(対応3)。
昨年はおとり広告が問題視、手放しで評価できぬ面も
ただ、今回「4要素」を満たしたスシローだが、手放しに評価できない面もある。
2022年6月には、広告出稿した商品にもかかわらず、多くの店舗で提供されていない、いわゆる「おとり広告」を理由に、消費者庁から景品表示法に基づく措置命令を受けている。
その後も、生ビール半額キャンペーンの「フライング告知」や、メバチマグロの代わりに、仕入れ値の安いキハダマグロを使っていたなどの事案が相次いだ。
行政処分から、まだ半年ちょっと。今回の事案は迷惑客に非があるものの、上記のような消費者とのコミュニケーションを見たネットユーザーからは「おとり広告を忘れていない」「もう許されたのか」との声も散見される。
企業イメージの回復には、消費者と誠実に向き合い、信頼を積み重ねていくしかない。その点で、迷惑行為をめぐる一連の対応には、反省やノウハウが生かされていると期待したい。
城戸 譲(きど・ゆずる)
ネットメディア研究家
1988年、東京都杉並区生まれ。日本大学法学部新聞学科を卒業後、ジェイ・キャストへ新卒入社。地域情報サイト「Jタウンネット」編集長、総合ニュースサイト「J-CASTニュース」副編集長などを経て、2022年秋に独立。政治経済からエンタメ、炎上ネタまで、幅広くネットウォッチしている。