iPhone買うと5万円の利益!? 「販売しろ」と怒声の転売ヤーに店員が従うしかない理由
ドコモの携帯ショップ *写真はイメージです winhorse / iStockphoto
<菅政権が推し進めた携帯電話料金の引き下げは、混乱を生んだだけの愚策?>
昼間から携帯ショップで飛ぶ怒号
平日昼間のドコモショップ。普段は料金を支払う人や、プランの説明を求める人が集まるが、この日は様子が違っていた。
「だ~か~ら、あるんだろ⁉ じゃあなんで売れないんだよ、違法だろ⁉ い・ほ・う‼ さっさとしろよ! 親会社にここで通報してもいいんだからな?」
携帯販売店とは思えない声の荒らげ方で、店員に詰め寄る男。普通なら警察を呼ばれてもおかしくない振る舞いだが、店員は所在なさげに下を向くばかりだ。
いったいなぜ、このようなことが起こるようになったのか。
話は2019年10月の改正電気通信事業法が施行された時点にさかのぼる。当時の総理大臣、菅義偉氏の看板施策だった「携帯料金4割値下げ」を実現するため、この法律が施行された形である。
「回線契約をする見返りとしての割引」が2万円までに
この改正電気通信事業法で、大きく変わったのは3点だ。
まずは、解約金に関する点。それまで一般的に"2年縛り"と言われてきた解約時の違約金上限が1000円に設定された。これによって、違約金を盾に解約を阻止することが難しくなったため、ユーザーは気軽に回線を解約し、他社へ移ることが可能となった。しかしこれに伴い、長期契約者向けに割引やキャッシュバックといった形で提供される特典も、170円までが上限となった。
2点目が、端末代金と通信料金の完全分離だ。これまでは端末を購入した際に、「月々サポート」や「毎月割」などの名称で通信料金が毎月割引され、実質的に端末が安くなる施策があったのだが、この完全分離によってこうした割引は難しくなった。
総務省の狙いは通信事業者間の競争を活発にすることだった。毎月割引という形で付与される月々サポートは「解約すると割引が受けられない」とも言い換えられる。総務省とすれば、こうした抜け道をふさぐのは当然だろう。
そして次に大きく変わったのが、端末代金の値引き上限である。総務省は携帯料金の下がらない原因に、端末代金の割引にキャリアの資金が使用されている点が大きいと考えており、新規契約時に購入する端末代金の値引き額を税抜2万円までと定めた。この結果、「回線契約をする見返りの割引は2万円(税込み2万2000円)まで」となった。
当時、「月々サポート」「毎月割」などの名称で提供されていた端末購入の補助施策や、セール時の大幅な割引はできなくなり、ユーザーは端末代金のほとんどを自腹で負担することとなった。
割引がなくなると直販で買ったほうが安い
もともと携帯キャリアが販売する端末の定価はキャリアの利益分が上乗せされており、メーカーの定めた価格より割高であることが多い。
例えば、ソフトバンク版iPhone 13 Pro(128GB)の販売価格は16万9920円だ。しかしこれをAppleから直接購入すると、14万4800円。機能にまったく差はないにもかかわらず、約2万5000円も高い。契約時に2万円の割引が入ってもなおAppleから買ったほうが安いのだから、割引がなくなると積極的に買う理由は見当たらない。
改正電気通信事業法によってプラン料金は下がり、格安SIMを含めた通信事業者間の競争が活発になった面もあるものの、端末は気軽に入手しづらくなるという結果を招いた。
これによって、一般ユーザーが割引施策に頼らず、お得に携帯電話を運用しようと考えた場合、「家電量販店やメーカー直販で(わずかでも割引の入った)端末を買い、格安SIMのSIMカードを挿入して使う」というのが最適解になる。これが日本にとって良いことか悪いことかは私には判断できないが、ミクロな範囲での経済合理性を追求すると、こうなるはずだ。