iPhone買うと5万円の利益!? 「販売しろ」と怒声の転売ヤーに店員が従うしかない理由
大手キャリアをさらに窮地に追い込んだ販売方法
特にライトユーザーほど、こうなるだろう。3大キャリアのプランは基本的に「使い放題でやや高額なプラン」か「ギガ単価のかなり割高な小容量プラン」しかない。そのため、3大キャリアのプランがベストマッチするのは「通信品質の高いプランを無制限に使いたいヘビーユーザー」に限られる。中~小容量のプランを求めるユーザーは、端末の割引もなければプランの優位性もない大手キャリアを使う必要が薄い。格安SIMへの流出が起こるのは当然だといえる。
菅元総理の推し進めた「4割値下げ」施策によって、確かに通信料金は引き下げられた。しかし、それは同時に「端末」という強みを持っていた大手キャリアの強みを放棄させるものだった。
そして、さらに大手キャリアを窮地に追い込んだのが改正電気通信事業法で設定された「移動機物品販売」という販売方法の存在だ。この「移動機物品販売」が冒頭のような騒動につながってくる。
「移動機物品販売」とは
「移動機物品販売」の「移動機」とは「持ち運び可能な通信端末」を指すため、言い換えれば「ケータイ販売」とも言い換えられる。あまりに当たり前すぎて、どんな販売方法なのかイメージが湧かないかもしれない。
これは端末の単体購入、つまり「契約なしで端末を販売すること」を指す。たとえば、ドコモユーザーではない人がドコモショップへ行ってドコモ版の端末だけを購入するような行為が、移動機物品販売に該当する。
これ自体はシンプルな行為であるのだが、改正電気通信事業法第27条の3では「端末の単体購入を拒否してはならない」と定められている。つまり、移動機物品販売を拒否することは法律違反なのだ。
これが冒頭のような騒動とどう関係してくるのか。
「販売条件なしの割引」につけ込まれると......
3大キャリアは端末の安売りという翼をもがれたのだが、抜け道を発見して「安売り」を復活させた。端末の販売価格そのものを引き下げたのだ。
たとえば、キャリアが「他者からの乗り換えユーザーに、定価10万円のiPhoneを0円で特価販売したい」と考えたとする。前述のように、法律で決められた値引きは税込み2万2000円までなので、法律にのっとると7万8000円までしか値引きできない。
しかし、「販売条件なしでの割引」の上限は改正電気通信事業法によって定められてないため、いくらでも値引きができる。
そのため、「新規契約のオマケ」である2万2000円に、「端末を買えば無条件でついてくる割引」の7万8000円を足すと、割引額は10万円になり、0円でiPhoneを提供することが可能になるのだ。
この安売り方法には問題もある。7万8000円の割引は「販売条件なし」の割引なので、新規契約だろうが機種変更だろうが、移動機物品販売だろうが7万8000円が割引され、2万2000円でiPhoneが買えてしまうのだ。
今年3月には、iPhone12 64GBを0円~9800円程度で販売する特価セールが多くの販売店で見受けられた。しかし、これは前述の「端末を買えば無条件でついてくる割引」をうまく利用したものだ。そのため、のりかえ契約時にiPhone0円セールを行っているお店は、客に「端末単体でiPhone12を売ってくれ」と言われたら、2万2000円で売らねばならなくなる。
未使用品iPhone12 64GBの市場相場は、だいたい7万円。回線契約を獲得できずに2万2000円で売ってしまったら、5万円近い大赤字だ。