最新記事

日本社会

iPhone買うと5万円の利益!? 「販売しろ」と怒声の転売ヤーに店員が従うしかない理由

2022年9月14日(水)19時00分
山野祐介(行動するお金博士) *PRESIDENT Onlineからの転載

大手キャリアをさらに窮地に追い込んだ販売方法

特にライトユーザーほど、こうなるだろう。3大キャリアのプランは基本的に「使い放題でやや高額なプラン」か「ギガ単価のかなり割高な小容量プラン」しかない。そのため、3大キャリアのプランがベストマッチするのは「通信品質の高いプランを無制限に使いたいヘビーユーザー」に限られる。中~小容量のプランを求めるユーザーは、端末の割引もなければプランの優位性もない大手キャリアを使う必要が薄い。格安SIMへの流出が起こるのは当然だといえる。

菅元総理の推し進めた「4割値下げ」施策によって、確かに通信料金は引き下げられた。しかし、それは同時に「端末」という強みを持っていた大手キャリアの強みを放棄させるものだった。

そして、さらに大手キャリアを窮地に追い込んだのが改正電気通信事業法で設定された「移動機物品販売」という販売方法の存在だ。この「移動機物品販売」が冒頭のような騒動につながってくる。

「移動機物品販売」とは

「移動機物品販売」の「移動機」とは「持ち運び可能な通信端末」を指すため、言い換えれば「ケータイ販売」とも言い換えられる。あまりに当たり前すぎて、どんな販売方法なのかイメージが湧かないかもしれない。

これは端末の単体購入、つまり「契約なしで端末を販売すること」を指す。たとえば、ドコモユーザーではない人がドコモショップへ行ってドコモ版の端末だけを購入するような行為が、移動機物品販売に該当する。

これ自体はシンプルな行為であるのだが、改正電気通信事業法第27条の3では「端末の単体購入を拒否してはならない」と定められている。つまり、移動機物品販売を拒否することは法律違反なのだ。

これが冒頭のような騒動とどう関係してくるのか。

「販売条件なしの割引」につけ込まれると......

3大キャリアは端末の安売りという翼をもがれたのだが、抜け道を発見して「安売り」を復活させた。端末の販売価格そのものを引き下げたのだ。

たとえば、キャリアが「他者からの乗り換えユーザーに、定価10万円のiPhoneを0円で特価販売したい」と考えたとする。前述のように、法律で決められた値引きは税込み2万2000円までなので、法律にのっとると7万8000円までしか値引きできない。

しかし、「販売条件なしでの割引」の上限は改正電気通信事業法によって定められてないため、いくらでも値引きができる。

そのため、「新規契約のオマケ」である2万2000円に、「端末を買えば無条件でついてくる割引」の7万8000円を足すと、割引額は10万円になり、0円でiPhoneを提供することが可能になるのだ。

この安売り方法には問題もある。7万8000円の割引は「販売条件なし」の割引なので、新規契約だろうが機種変更だろうが、移動機物品販売だろうが7万8000円が割引され、2万2000円でiPhoneが買えてしまうのだ。

今年3月には、iPhone12 64GBを0円~9800円程度で販売する特価セールが多くの販売店で見受けられた。しかし、これは前述の「端末を買えば無条件でついてくる割引」をうまく利用したものだ。そのため、のりかえ契約時にiPhone0円セールを行っているお店は、客に「端末単体でiPhone12を売ってくれ」と言われたら、2万2000円で売らねばならなくなる。

未使用品iPhone12 64GBの市場相場は、だいたい7万円。回線契約を獲得できずに2万2000円で売ってしまったら、5万円近い大赤字だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中