水のボトル6本が2000円 カナダ極北部の人びとを苦しめる物価高

カナダ北部の辺境地帯に暮らす人々は、以前からずっと食料購入にかなりの金額を投じてきた。昨今の物価上昇は、ただでさえ厳しい状況をさらに悪化させている。同国最北部のヌナブト準州にある食料品チェーン、ノースウェスト・カンパニーの店舗で7月28日撮影(2022年 ロイター/Carlos Osorio)
カナダ北部の辺境地帯に暮らす人々は、以前からずっと食料購入にかなりの金額を投じてきた。昨今の物価上昇は、ただでさえ厳しい状況をさらに悪化させており、世界有数の穀物・食肉輸出国であるカナダの弱点が露呈している。
カナダ最北部を構成する3つの準州のうち、最大のヌナブト準州では、複数のコミュニティーを相互に結ぶ道路がなく、生鮮食品は週に2回の空輸に依存せざるを得ない。永久凍土と、ほぼ1年を通じて氷点下になる気温のため、農作物の栽培はほぼ不可能だ。
新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的大流行)と、ロシアのウクライナ侵攻がもたらしたサプライチェーンの混乱を受け、貧困国における食糧事情はさらに悪化した。ヌナブト準州での状況は、小麦・豚肉の輸出量で世界第3位であるカナダのような富裕国でさえ、貧困地域では被害が生じていることを示している。
ヌナブト準州の州都イカルイトの店舗ではこのところ、チェリー1袋が21カナダドル(約2200円)、ボトル入り飲料水6本パックが19カナダドル(約2000円)で販売されている。いずれも、同国南部の2倍の価格だ。ソフトドリンク12缶入りパックは27カナダドルで、南部の3倍に上る。
イカルイトに住むナサニエル・シュイナードさん(35)によれば、従来であれば6人家族の食費は2週間で500カナダドルだったという。だが今年1月以降、支出は2週間ごとに150カナダドルずつ増えた。
警備会社とIT企業を掛け持ちで働くシュイナードさんは「これまでより長時間働いて、何とかやっている」と語る。「家族と過ごす時間は減っているが」
イカルイトで困窮者に無料の食事を提供している、いわゆる「スープキッチン(炊き出し)」のカジュクトゥルビク食品配給センターによれば、今年6月までに提供した食事は2万食分。すでに、昨年1年間の回数に達してしまった。
同センターでエグゼクティブ・ディレクターを務めるレイチェル・ブレイス氏は「国内北部での食料不安により、すでにカナダ史上で最も長期にわたって、公衆衛生上の緊急事態が宣言されている」と語る。
「この7カ月で需要が急増しているのが心配だ」
ヌナブト準州のマーガレット・ナカシュク家庭サービス担当相は、食料不足のために子どもらは学校での勉強に悪影響が出ているほか、侵入窃盗を中心とする犯罪が増大していると言う。
「コストは増大」
カナダ北部での食品価格の上昇について、定量的な把握は難しい。国内統計局による北部準州地域でのインフレ測定は、主要都市3カ所における物価上昇を試算するだけに留まり、生鮮食品やエネルギーなどを除いた詳細な内容はない。
イカルイトの消費者物価指数は年初以来2倍に上昇し、インフレ率は6月には4.3%に達した。これはカナダ銀行(中央銀行)の目標である2%を大きく超えている。カナダ全土でのインフレ率8.1%よりはかなり低いが、その理由は主として、ヌナブト準州政府が価格高騰の前に燃料を一括購入していたためだ。