最新記事

日本経済

日本経済が世界から取り残される原因作った「真犯人」 なぜこれほど新興企業が少ないか

2022年6月6日(月)07時45分
リチャード・カッツ(東洋経済 特約記者・在ニューヨーク) *東洋経済オンラインからの転載

日本を再びスタートアップの国にするという目標は実現できるのでしょうか。f11photo - iStockphoto

世界の「SONY」や「HONDA」を生んだ時代のように、日本を再びスタートアップの国にするという目標は、岸田文雄首相が5月5日に行われたロンドンでの講演で発表した4つの目標のうちの1つであった。

「ですから、日本に再び創業ブームを起こすことが、私の切なる願いです」。賞賛に値する目標である。しかし、歴代の首相も高い目標を掲げてはきたが、残念ながら実現に必要な施策を打つことはできなかった。岸田首相はそうならないことを期待したいが......。

スタートアップが必要な理由

より多くのスタートアップを生み出すための提案について論じる前に、なぜスタートアップが重要なのか、そしてなぜ日本は遅れを取っているのかを確認したい。


「スタートアップ」や「アントレプレナー」という言葉を聞くと、ベンチャーキャピタル(VC)の資金を投入されたシリコンバレーにあるハイテク企業を思い浮かべる人が多いだろう。しかし、シリコンバレーにあるハイテク企業の数はわずか2000社である。

一方、OECDの統計によると、アメリカには毎年5万社以上の高成長企業(従業員10人以上で、3年連続で年率20%以上の成長を遂げた企業)が存在する。韓国は1万6000社、イギリスは1万3000社、フランスは1万社である。このうちハイテク企業はごく一部で、VC資金を得ている企業は極めて少ない。日本ではこのような企業の数を測定していないため、日本のスタートアップ政策は盲目的に行われている。

国民の生活水準を向上させるためには、成長性の高い中小企業を継続的に創出していくことが不可欠だ。1980年代から1990年代にかけてのアメリカでは、設立5年未満の企業の参入と、効率の悪い老舗企業の閉鎖によって、就業者当たりの製造業生産高の成長率60%という驚くべき結果がもたらされた。

一方、1980年以降、アメリカの新興企業の起業数が鈍化したときに何が起きたかを考えてみていただきたい。2015年までに、就業者1人当たりの生産高は1980年の起業数であったときと比較して3%低くなり、平均家計所得は1600ドル低下した。長年にわたる所得喪失の総額は何倍にも膨らんだ。

設立後最初の10年間の成長が低調

残念ながら、日本では高成長している中小企業の数があまりにも少ない。それが、実質世帯所得(価格調整済み)が1995年以降低迷を続けている理由の1つである。日本には数多くの中小企業があるのは確かだが、創立後最初の10年間の成長はOECD諸国の中で最も低調で、老舗中小企業の数がOECD諸国の中で最も多い。

おそらく最大のハードルは、意欲的な若い企業が事業拡大に必要な融資を受けられないことだろう。また、岸田首相が挙げた技術や人的資本という2つの問題も、中小企業の成長を妨げている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「米中が24日朝に会合」、関税巡り 中国

ビジネス

米3月耐久財受注9.2%増、予想上回る 民間航空機

ワールド

トランプ氏、ロのキーウ攻撃を非難 「ウラジミール、

ビジネス

米関税措置、独経済にも重大リスク=独連銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 2
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考えるのはなぜか
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 5
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    「地球外生命体の最強証拠」? 惑星K2-18bで発見「生…
  • 8
    謎に包まれた7世紀の古戦場...正確な場所を突き止め…
  • 9
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中