最新記事

日本経済

日本経済が世界から取り残される原因作った「真犯人」 なぜこれほど新興企業が少ないか

2022年6月6日(月)07時45分
リチャード・カッツ(東洋経済 特約記者・在ニューヨーク) *東洋経済オンラインからの転載

しかし残念ながら、岸田首相もスタートアップを語るとき、VC出資企業の魅力に魅了されすぎているようだ。例えば、岸田首相のプランを推進するため自民党内に結成されたスタートアップ議連は、2027年までにVC投資額を10倍の10兆円(770億ドル)にすることを目標としている。このようなVC投資は魅力的だが、VCから投資を受けた企業だけが注目されるべきではない。

3月には経団連がほぼ同じ内容の提言を出しているが、その内容はシリコンバレー型ベンチャーに終始している。しかもスタートアップ議連の提言では、スタートアップの企業数を10倍に増やすとしている。

しかしこれでは、1社当たりの投資額は現状と変わらず、諸外国と比較してかなり少額になってしまう。そのため、スタートアップ議連の中心人物である平井卓也・前デジタル化担当相がPensions & Investmentsに対して語った、日本は「エンジェル」投資家に対する減税措置も必要であるとの発言は心強い。

エンジェル投資家とは、ベンチャー・キャピタルの資金を必要としない、あるいは資金を得られない革新的な企業に「種銭」を出資する投資家である。平井氏は、具体的なことは何も語らなかった。関係者によると、平井氏のさまざまな提案は、少なくとも部分的には、岸田首相のプログラム作成に携わった政府関係者との議論を反映している可能性が高いという。

「華やか」なことが重要なわけではない

岸田首相は、技術に関しても華やかさを追い求めている可能性がある。首相は5つの分野における「国家戦略」を提案したが、その1つ目として挙げられたのが人工知能(AI)だ。これは、超伝導技術やナノテクノロジーを成長の特効薬と考えた過去の戦略と似ている。日本企業は既存の技術すらうまく使いこなせていないのだから、この優先順位は見当違いのように思える。

国の成長を最も後押しするのは、デジタル機器を製造する少数の企業ではない。たとえデジタル技術やソフトウェアが輸入品であったとしても、デジタルを活用して自社を向上させることができる他多数の企業である。

新興企業は老舗企業よりも、新技術を活用して経済全体の成長を促進する手段を開発する可能性が高い。例えば、ネット印刷を手がけるラクスルはネットを利用した宅配便のオークションシステムを構築した。

これによって、配達員の1キロ走行あたりの配達荷物数を大幅に増やすことができた。配達員の収入アップと顧客のコストダウンを達成しただけではなく、地球温暖化防止にも貢献している。このような企業が何万社も生まれたとき、日本は復活を果たすだろう。

日本と諸外国、そして日本の大企業と中小企業の間に存在するデジタル・デバイドは、もはや深い溝と化している。IMD(国際経営開発研究所)は、日本のデジタル競争力を64カ国中62位と評価した。

日本の高校生は数学、科学、共同問題解決能力において80カ国中トップクラスに位置する一方で、デジタルに関する教師の知識、デジタルを教える能力、そして教師を支援するリソースにおいては最下位に位置していることが、この低い順位の1つの要因だ。

デジタルスキルの教育がない残念さ

政府の教育アドバイザーである鈴木寛氏は、アメリカに拠点を置くジャパン・ズーミナーにおいて、この低迷の理由はデジタルスキルが大学入試に含まれていないことであると説明した。このため、学校の教師はデジタルスキルを教える必要がないと考えているのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

26年度の超長期国債17年ぶり水準に減額、10年債

ワールド

フランス、米を非難 ブルトン元欧州委員へのビザ発給

ワールド

米東部の高齢者施設で爆発、2人死亡・20人負傷 ガ

ワールド

英BP、カストロール株式65%を投資会社に売却へ 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中