最新記事

日本経済

材料豊富で止まらぬ円安 日銀YCCレンジ拡大でも効果薄か

2022年4月20日(水)17時54分

日本の当局者から連日のように「口先介入」が行われているが、効果は限定的。実際に、ドル売り・円買いを行う為替介入は難しいとの見方が市場には多いためだ。

政府短期証券(FB)を発行し円資金を調達すれば、資金面ではほぼ無制限に行える円売り介入と違い、円買い介入の場合は、外貨準備高の量(3月末時点で1.35兆ドル=約174兆円)が事実上の円買い介入の限界となる。インフレに悩む米国の理解も得にくいとみられている。

YCCレンジ拡大では効果薄か

こうした中、市場の注目は27─28日の日銀金融政策決定会合に集まる。三菱UFJ銀行のチーフアナリスト、井野鉄兵氏は「日銀が何もしなかった場合はドル/円の跳ね方が大きくなる可能性がある」と警戒。1ドル130円を超えた場合、132円も視野に入ってくるとみている。

黒田東彦日銀総裁は18日の衆院決算行政監視委員会で、円安のマイナス面にも考慮が必要と指摘したが、「バランスシートの縮小や政策金利引き上げは可能だが、今その状況でない」と発言しており、市場では利上げなど大きな政策変更の可能性は低いとみられている。

政策の微修正の可能性があるとされているのが、YCCにおける10年債金利の許容レンジの引き上げだ。米国だけでなくドイツなど欧州でも金利は大きく上昇しており、「国債の市場機能を維持するために現在の上下0.25%から拡大させるとの理屈は通りやすいのではないか」(国内証券)という。

ただ、微修正では、0.50%を含む複数回の利上げが織り込まれている米金利との差を縮めるのは難しい。

野村証券のチーフ金利ストラテジスト、中島武信氏は、日銀が許容レンジを例えば上下0.5%に拡大した場合、もしくはレンジを撤廃した場合でも、現在の米金利から推計される10年債金利の上昇めどは0.33%程度と指摘。この程度であれば、日米10年金利差縮小による円高効果は1円程度しかないと試算している。

日銀が政策修正を行えばサプライズ感が出やすく、円安はいったん止まるかもしれない。しかし、インバウンド収入増加による貿易収支の改善など、日銀が金融引き締めに向かえると市場が期待できるようなファンダメンタルズの変化がなければ、「歯止め」は短期間の効果にとどまる可能性が大きい。


伊賀大記

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・外国人同士が「目配せ」する、日本人には言いづらい「本音」
・中国人富裕層が感じる「日本の観光業」への本音 コロナ禍の今、彼らは何を思うのか
・日本のコロナ療養が羨ましい!無料で大量の食料支援に感動の声
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中