継続か撤退か......ロシア進出の日本企業が苦慮 欧米勢撤退で焦り募る
日本企業がロシア事業の扱いに苦慮している。写真は、サハリン近郊のプラントに停泊中の日本のLNGタンカー。日本はLNGの約1割をロシアから輸入している。2009年2月撮影(2022年 ロイター/Sergei Karpukhin)
日本企業がロシア事業の扱いに苦慮している。物流の混乱などを理由に生産や輸出の停止に動いているものの、ESG(環境、社会、企業統治)投資の広がりで早くから社会問題への対応を迫られていた欧米企業は、ウクライナ侵攻に非難の声を上げて事業撤退を相次ぎ決定。日本勢は現地の雇用などへの影響も考慮せざるを得ないとする一方、判断の遅れも認識しており、幹部らからはレピュテーションリスク(社会的評判やブランドイメージへの悪影響)を危惧(きぐ)する声が聞かれる。
連日会議、リスクを議論
ロシアに工場を持つ日本のある自動車メーカーは、連日会議を開いて対応を協議している。同社幹部によると、制裁対象の金融機関はどこか、決済や供給網(サプライチェーン)に影響はないか確認しているという。
米フォードやスウェーデンの商用車大手ボルボは早くに事業停止を決めており、「人権などの観点からのレピュテーションリスクも議論している。当然意識している」と、この幹部は言う。「それでもすぐに撤退を決めないのは、ウクライナ危機のこの状況がどのくらい続くのかまだ見通せないからだ」と話す。
ロシアに進出する日本企業のうち、自動車メーカーはトヨタ自動車と日産自動車が同国向け完成車輸出を停止。トヨタは現地生産も止めた。日産、マツダ、三菱自動車工業も在庫部品がなくなり次第、現地生産が止まる見通し。現地に工場がないホンダは四輪車、二輪車とも輸出を取りやめた。
理由はいずれも物流や決済の混乱。建機大手のコマツと日立建機も同様だ。
前出とは別の自動車メーカー幹部は、撤退すれば現地の雇用に影響が出るとし「なぜ撤退しないのかをしっかり説明しないといけない」と話す。「生産・販売を黙ってこのまま続けるだけでは、レピュテーションリスクになると感じている」と打ち明ける。
国益と人権のはざま
とりわけ対応に注目が集まっているのが、日ロ経済協力の象徴であるエネルギー開発事業に参画する商社だ。三井物産と三菱商事は「サハリン2」に、伊藤忠商事グループと丸紅は「サハリン1」に出資している。
2からは英シェルが、1からは米エクソンモービルが撤退を決めた。ある大手商社の関係者は、液化天然ガス(LNG)など長期契約を結んでいる販売先に影響が出ないよう状況を見極める必要があると説明する。「エネルギー問題は国益や公益にもかかわるため、政府やその他の関係者とも緊密に議論している」とした上で、同時に、企業価値や株主への説明も考えなければならないため「難しい立場だ」とも語る。